2021年12月9日木曜日

偽りの記憶の問題 5

  さてトラウマ記憶を想起させると、その時間に応じて3つのフェーズに分かれるらしい。再固定化期(最初の1分)、移行期、消去期(3から10分)である。大切なのは、再固定化も消去も、タンパク合成が伴うという事だ。つまりはシナプスを工事しなくてはならない。(忘れると言ってもただで忘れていく、というわけではないのかもしれない。例のエビングハウスの曲線も、ただダラダラと下がっていくのではない???ここら辺は私にもよくわからないが、まあ先に進もう。)そのことはタンパク合成を阻害する薬を注入すると、再固定化も消去も両方とも阻害されるからだという。ちなみにタンパク合成が行われるのは、再固定化なら扁桃核と海馬であり、消去は扁桃核と内側前頭前野だという。
 ところで私はこれを先述の論文を参照しながら書いているが、ここら辺までは追えたが、論文はさらに難解になって行ってこれ以上読み進められなくなったのでこのくらいにしておく。ともかくも記憶が増強されたり、逆に薄れたり、というメカニズムは結構込み入っていて、これから解明されなくてはならない点は多いが、かなり治療に直結した重要な研究であるという事である。

 ところで私が書こうとしているのは「偽りの記憶」についてのものだが、この再固定化や消去という現象はそれと関係しているのだろうか?一つ言えるのは、ある記憶が再固定化を繰り返した場合に、その内容にどのような変化が起きるのか、という問題が関係しているであろうという事だ。例えば記憶内容は「コンビニにコーヒーを買いに行った」だとしよう。その記憶が増強されていったら、その記憶にいろいろな尾ひれがついていくのであろうか? 例えば実際にコンビニにコーヒーを買いに行った場合、コンビニに行く途中で体験したこと、コンビニでほかに手にした商品についての記憶なども一緒に覚えているであろうが、だんだんエビングハウスの曲線に従って忘れていくであろう。ところが「コンビニにコーヒーに行った」という事だけが再固定化されて増強していったら、途中で見たものなども一緒に残っていくのか、それとも「新たな尾ひれ」が付け加わるのか。想起されるのがコンビニにコーヒーを買いに行ったことだけであるなら、それが生々しく保存する際にはその周辺部も必ず一緒に思い出される筈である。するとそれが新生されてしまうことはないのか。おそらくこの辺が偽りの記憶とも関係しそうである。なぜならロフタス先生をはじめとするFMS派の先生方の実験は結局は子供に架空の話を何度か教示することでそれが定着してしまうというパラダイムに従っているからだ。