第6章「優越の錯覚」に進む。ここに記載されていることはただ事ではない。イノセンスプロジェクトという団体が冤罪の濡れ衣を着せられた人たちを337人ほど釈放させたという。それらの例の少なくとも75パーセントで、誤った記憶が有罪の根拠とされていた。この数字は米国の、それもDNA鑑定が出来た事件に限ったものだという。また次の話題。数多くの研究で、殆どの人は、自分は平均より知的で魅力的で、有能だと思っているという。そしてこの過信の影響はあらゆる領域で見られるというのだ。そしてこれがこの章のタイトルにもなっている「優越の錯覚」という事だという。もうひとつ面白いのが「生存者バイアス」。スティーブン・ジョッブスは大学中退者だった。だから僕も成功するために大学を中退する、という類の錯覚であるという。
第7章「植えつけられる偽の記憶」は本書の要となる章と言える。そこに記されたたくさんの実験例が、偽りの記憶が実際に作られるプロセスを示している。その中で特に興味深いのが、「トラウマ記憶は特別か?」というテーマだ。2001年にポーターとバートにより発表された研究では、トラウマ記憶についての研究を行い、いくつかの定説を否定した。たとえば通常の記憶より弱いという理論がある。戦場の記憶は断片的であり、フラッシュバックとしてよみがえってくるという性質を持つと言われる。そしてその理由として考えられるのが解離であるわけだ。ところがポーターとバートはそのような理論に根拠はないという。精神医学では半ば定説化しているこのトラウマ記憶と解離との関係についての否定的な理論も2000年以降提出されているというのは意外だった。