2021年12月21日火曜日

偽りの記憶の問題 13

  睡眠学習が効果がないとわかってがっかりしたところで先に進もう。もう一つ本書で問題にするのが、「催眠でも埋もれた記憶を掘り起こせるのか」というテーマだ。こんなことを自らに問うてみよう。「催眠にかけることで、人はその人の埋もれた記憶を取り戻すことが出来るだろうか?」想像してみよう。非常に有能で経験豊かな催眠術師がAさんに深い催眠を掛けると、彼はたとえば子供時代のあるエピソードについて滔々と語る。そんなことが起きるだろうか?私自身にも問うてみる。うーん、何となくありそうだなあ。実際この章の本によれば、アメリカの大学生の44%はそのような現象を信じているが、その実証性はなんと、「ない」そうなのだ。そうか、私の認識もアメリカの大学生のレベルだったのだ。精神科医失格だな。そして最近の催眠の研究はもっぱら痛覚刺激を小さくした、タバコを止められた、過敏性大腸症候群などが改善したなどの研究に限られているというのだ。
  ショウの本はこれからさらに催眠の話に入っていくわけだが、私にはだんだんわからなくなってきたことがある。例えばこんなことが書いてある。


   1962年の研究で、ボストン大学のセオドア・バーバーが発見したのは、幼児期まで退行するという暗示をかけられた被検者の多くが、子供の様なふるまいをし、記憶を取り戻したと言い張ったことだ。しかし詳しく調べてみると、その「退行した」被検者が見せた反応は、子供の実際の行いや言葉、感情や認識とは一致しなかった。バーバーの主張によれば、被検者たちには子供時代を追体験しているかのように感じられたのだろうが、実はその体験は再発見した記憶というより、むしろ創造的な再現だった。同様に、心理療法中、暗示的で探るような質問に催眠術を組み合わされると、複雑で鮮明なトラウマの過誤記憶が形成される可能性がある。

  なぜこの数行の文章が悩ましいか? 考えてみよう。退行催眠が可能な人のいったい何人にDIDの人が混じっている可能性があるだろうか?そもそも催眠にかかりやすい人とは、結局解離性障害を有している人という事はないだろうか? 誰かこの疑問に答えてくれないだろうか?