2021年11月16日火曜日

解離における他者性 46

 では意識とDCとの関係はどのようなものだろうか?きわめて大雑把な言い方をすれば、意識的な活動を行っている時は、DC全体が広く活動しているという事である。ではDCの活動=意識と考えていいのであろうか。私たち精神科医がよく出会うのは、いわゆる上向性毛様体賦活系 ascending reticular activating system ARASと呼ばれる部位である。この部分は脳幹の橋と呼ばれる部位から発し、視床下部と毛様核を介して視床や大脳皮質に広く投射しているシステムである。ここが活動をしている時は人は明確な意識的な活動を行い、ここが活動を低下させると人は眠ったり昏睡になったりする。だからこれはDCの活動を調節するボリュームボタンのようなものだと言える。だからARASは意識活動を創り出すという働きはしていないことになる。

さて意識の在り方を知るうえでとても参考になる実験がある。それがいわゆる「binocular rivalry 両眼視におけるライバル関係」である。これは右目と左目に全く異なる情報、例えば右目は赤い横縞、左目には青い縦縞の模様を見せるとする。脳はこれらのどちらか一つしか把握できない。つまりある時は赤い横縞しか意識できないし、別の瞬間は青い縦縞しか把握できない。これらの両方の情報は一度にどちらか一つしか見えない。この実験は以前紹介した二つの顔のだまし絵、つまり燭台を前にした一つの顔か、燭台に向かい合った二つの顔かのどちらかしか見えないという話と似ていることに気が付くであろう。そしてここで改めて明らかになるのは、意識は二つのことをいっぺんに体験できないという事である。体験は脳全体の同期化を必要としていて、それは必ず一つのクオリアに向けられている必要があるのである。