リフレクティングではオープンダイアローグの最中に、治療者どうしが椅子の向きを変えて向き合い、患者について話し合う場を設ける。ここが一番奇妙かも知れない、と斎藤環さんも書いている。ここで大事なのは、患者に治療者を観察してもらう事であるという。治療者間の対立などもその観察の対象になる。なぜこれが大切かと言えば、「患者がいないところで患者の話をしてはいけない」というルールがあるからだという。そしてそこで患者は尊厳や主体性を与えられた感じになるという。斎藤氏によれば、これはODの根幹部分である。そしてそこでは見えない壁を作り、患者に目を合わせないという。ただしもちろんそこでネガティブなことは言わないことが大事である。何しろ当事者が聞いているからである。ここでリフレクティングは差異を扱うという事が言われるが、それは皆が注意深く色々な意見を出し合うからである。また面白いのは本人に何かコメントを直接するのではなく、リフレクティングで、「彼は~と考えているのではないか?」という言い方をするという。このプロセスでおそらく重要なのは、患者が自分について様々な治療者が異なる見方をしてくれているという事、そしてそこに唯一の正解などないという事であろう。
ここでリフレクティングで守らなくてはならない点が整理される。
- 話し合われている当事者には視線を向けないこと。
- マイナス評価は控えること。
- 共感を伝えること。
- 患者がいないところで患者の話をしないこと。
このプロセスが興味深いのは、解離性同一性障害についての治療は、おそらく治療者はどの人格と対話をしていても、それがリフレクティングとしての様相を帯びているという事である。Aさんという人格と話していて、Bさん、Cさんについて言及するとき、Bさん、Cさんはそれを聞いている可能性がある。人格によっては治療場面に姿を現さないために、唯一その様な場面でしか治療者の自分についての考えを聞けないという事になるだろう。したがってリフレクティングで重んじなくてはならないお作法は結局はそこでも重んじられるという事になる。
この発表では各交代人格はお互いに他者同志という前提に立つが、するとこれは他者との出会いの機会でもあるという事である。そこでは自分以外の人格たちも、そして治療者も他者であり、その心の中をのぞくというプロセスになるのだ。