2021年5月24日月曜日

離隔 推敲 1

  「顕著なパーソナリティ特性」離隔 detachment
しばらく寝かしておいた「離隔」書き直してみたらまだ1800字。これをどうやって2800字まで膨らませればいいのだろう。ASDとの関連の問題など、書きたいことはたくさんあるが、「教科書」的な原稿だから、好き勝手に書くわけにはいかない。

離隔についてICD-11の草案では以下のように示されている。

 「 離隔特性の中核は,対人的な距離や情緒的な距離を遠くに保つ(対人的な離隔,情動的な離隔)傾向であり,社交的な交流や交友、親密さを回避し、また感情の体験や表現が限局され、人と打ち解けないという傾向を指す。
 対人的な離隔に関しては、その特性が高い人は対人交流を楽しむことをせず、むしろ窮屈で不快なものと感じ、できるだけ対人接触や対入場面を避けようとする傾向を有する。他者から話しかけられても、世間話をして軽く応じることを回避する。職業としても対人接触が少ない職種を選び、そのためには昇給や昇格を避けることもある。したがって友人や知人の数は限られ、家族との交流も最小限または表面的となりがちである。性的な親密さを求めることにも関心が薄かったり煩わしく感じたりする。
 情動的離隔に関しては、言語的にも非言語的にも限られた表面的な感情表現しかせず、また自らも狭い情緒体験しか持たない。他者といて楽しむ力に乏しく、あるいはそれよりは苦痛のほうが勝ることが多い。そのために他者からは何を考えているのかをつかみがたいと感じられる。
 ちなみに2013年に発表されたDSM-5では同じdetachmentが「離脱」と訳されているが、内容は同じである。
なおDSM-5では離脱を以下の6つの側面に分けて解説している。
引きこもり 他者と一緒にいるよりも1人でいることを好むこと:社会的状況で寡黙であること:社会的接触および活動を回避すること:社会的接触を自分から持とうとしないこと。
親密さの回避 親密な関係または恋愛関係,対人的な愛着,および親密な性的関係を回避すること。
快感消失 anhedonia 日常の体験を楽しめず、それに参加せず、またはそれに対しての気力がないこと;物事に喜びを感じ興味をもつ能力がないこと。
抑うつ性 落ち込んでいる,惨めであるおよび/または絶望的であるという感情:そのような気分から回復することの困難さ 将来に対する悲観:常に感じられる pervasive 羞恥心と罪責感,またはそのいずれか、低い自尊心、自殺念慮および自殺行動。
制限された感情  情動を引き起こす状況にほとんど反応しないこと;情動体験および表出が収縮していること;普通は人を引きつける状況に対する無関心さ,および,よそよそしさ。
疑い深さ 対人的な悪意または危害の徴候を予期すること,および,過敏であること: 他者の誠実性および忠実性を疑うこと:他者にいじめられている、利用されている、および/または迫害されているという感情。
 なお離隔は外向性とは対極的な存在として理解される。そして外向性と内向性という性格特徴を論じたのはユングであった。それをドイツ出身でイギリスに帰化した心理学者ハンス・アイゼンクが採用して、「神経症傾向」と合わせてパーソナリティの類型化を行なった。い「モーズレー性格検査 MPI」イギリスを始め、ヨーロッパで広く利用され、最近はアメリカにも進出している国際的な性格検査のひとつであるという。ただしこの概念の難しいところは、なおユングは対人関係よりも、興味の対象が外の事物か、内側の思考かに注目した。ちなみにアイゼンクは、反・精神分析的で、外向性を皮質覚醒レベルが変動しやすいことに関係すると提案した。そして内向者は外向者よりも慢性的に皮質が強く覚醒していると仮説を立てた。「外向的な人に比べると、内向的な人のほうが大脳皮質の覚醒水準が高く、1秒あたりにより多くの情報を処理することができるという。つまり、内向的な人は、たとえば賑やかな繁華街など刺激の多い場所に出かけると、すぐにキャパシティオーバーになるため、過剰な情報から自らをシャットダウンしようとする傾向がある。対照的に、外向的な人はすぐには覚醒しないため、より刺激的な環境に身を置こうとするのだという。」(以上ネットから引用)。この議論は自閉症を考えるとその通りとも考えられる。
 ちなみにDetachment やその他の社会との協調性を示す行動は、線条体という部位のドーパミンD2受容体の濃度とネガティブな相関があることが知られている。この概念はビッグファイブの一つとして取り上げられ、それが不足している状態が離脱として概念化されている。他方ではその生物学的な基盤についての研究も進んでいる。そして線条体のドーパミンマーカーと離隔やその他の社会との協調性のスコアの低さが示されている。
Breier, et al (1998) Dopamine D2 Receptor Density and Personal Detachment in Healthy Subjects. American Journal of Psychiatry, 155: 1440-1442.