さてDSM-IVの臙脂のテキストが発売されたのは1994年だったが、ここではこのDESNOSが掲載されるという期待があったがそれはかなわず、それは2013年のDSM-5についても同じであった。その理由としては飛鳥井先生の論文をもとに説明しよう。問題はフィールドトライアルにあったらしい。DESNOSの基準を満たしてPTSDの診断がつかなかった人はわずか8%だったという。そこでDSM-5ではPTSDに解離タイプを設けるなどして新たにDESNOSは採用しなかったというわけだが、そこで発想を転換して、名前もCPTSDとして、その中にPTSDの診断基準を含みこんでしまおうということになった。両者はダブって当然、ということになる。そしてそのうえでDESNOSのフィールドトライアルの中で頻度の多かった「感情制御困難」「否定的自己概念」「対人関係障害」を加えるということになった。この三つはどこかで見たことがあろう。そうDSO(自己組織化の障害)の構成要素だ。これはすでに紹介したDESNOSの基準で下線を引いた部分だ。復習しよう。
1.感情及び衝動の制御の変化(感情制御、怒りの調節、自己破壊、自殺への没頭、性的関与の制御困難、適度のリスク選択)
2.注意ないし意識の変化(健忘、一過性の解離エピソードと離人感)
3.身体化 (消化器症状、慢性疼痛、心肺症状、転換症状、性的症状)
4.自己概念の変化(役に立たない、恒久的ダメージ、罪業と責任)
5.加害者への感覚の変化(ゆがんだ思い込みを抱く、加害者の理想化、加害者を痛めつけることへの没頭、恥辱、だれもわかってくれない、卑小感)
6.他者との関係の変化(信用できない、再外傷、他者に被害を与える)
7.意識体系の変化 (絶望と希望喪失、以前は保っていた信念の喪失)
このことから「自己組織化の障害」がどうもピンとこないのも納得がいく。というのもAD(情動の調整不全)、NSC(否定的な自己概念)DR(関係性の障害)は7つの別々のカテゴリーを寄せ集めたものだからだ。
そしてBPDとの関連では、飛鳥井先生も述べるように、CPTSDとBPDはかなり明確に区別されるということだったという。そこで紹介されているCloitreら(2014)の研究について言えば、BPDの本質的な特徴とされる「見捨てられまいとする死に物狂いの努力」「理想化と脱価値化の間を揺れ動く対人関係」「不安定な自己感覚」「衝動性」はいずれもCPTSDでは低かった…・なんということだ。また自殺企図や自傷行為はBPDでは50%だったが、CPTSD,PTSDでは15%前後だったという。このようにハーマンさんのCPTSDはようやくICD-11で日の目を見たと同時に、CPTSD≒BPD説は否定された形になっているのである。