2021年3月12日金曜日

CPTSDのエッセイ 推敲 2

  例えば幼少時に繰り返し虐待を受けたケースを考える。そしてそのトラウマのフラッシュバックが生じるとともに、解離状態になり、普段と異なる言動を示すようになるとしよう。そしてその人がやがて成長し、多彩な解離症状を示すとした場合、それはPTSDという形を取るだろうか。おそらくDIDの人がどの程度PTSDとしての併存症を有するかを調べてみるといい。

 Şar, V. (2016):The psychiatric comorbidity of dissociative identity disorder: An integrated look. In: Shattered but Unbroken: Voices of Triumph and Testimony. Eds: A. P. van der Merwe & V. Sinason. Karnac Press, London (pp.181-210)

という論文には、DIDの人が障害のうちでPTSDの診断を有するのは46.7% 79.2%であると記している。まあ67割としよう。すると34割のDIDの患者さんにはCPTSDはつかないということになる。しかしDIDの殆どの方は「私の考える」CPTSDの基準を満たしているのである。では私が考えるCPTSDとは何か。それは繰り返しトラウマを体験したという経歴とDSOである。そこに解離症状を含めないとすれば、繰り返されるトラウマの結果が解離症状とは言えないからだ。

 The prevalence of present or lifetime PTSD among patients with DID is between (Ellason, Ross, & Fuchs, 1996; Kiziltan, Şar, Kundakçi, Yargic, & Tutkun, 1998).

 では私が考えるCPTSDとはどのような病態か? これがなかなか難しいのである。しかしDSOの部分はよくできていると思う。問題はトラウマによる直接の反応としての症状の記載だ。私としてはPTSD症状か又は深刻な解離症状又は自傷行為の項目の中からいくつか、という極めてDSM的な診断基準を考える。というのもやはりCPTSDは症候群なのだ。トラウマへの反応がフラッシュバックであったり、解離だったり、人それぞれで異なるために、そのような診断基準にせざるを得ないであろうと思う。

 もう少し自由連想を語るならば、CPTSDの概念が掲載されたのはいいが、その内容がPTSDに引っ張られすぎではないかと思うのだ。PTSDの複雑型、ということでPTSDの診断基準にプラスアルファしたものをその診断基準にしたというわけだが、それはPTSDの持つ解離にあえて触れないという特徴を踏襲してしまうことになる。せっかくいい概念なのに解離について触れないことがむしろ不自然で、それならDSM-5の「PTSDの解離タイプ」のほうがわかりやすいのではないかとも思ってしまう。ただしこちらのほうもPTSDの基準を満たすことが前提となる。やはり「PTSD派」寄りの概念ということか。

明日は治療論について一言。