2021年3月24日水曜日

エッセイの書き直し 6

 さてこれまでの経緯について最も総合的な解説を加えていらっしゃるのが、飛鳥井望先生のものである。原田先生編著の著書の冒頭に「複雑性PTSDの概念、診断、治療」として登場する。これによるとハーマンさんが打ち出したCPTSDに身体症状を加えた7カテゴリー27症状がDESNOSということになる。(ちなみに6カテゴリーとは①感情及び衝動の統御の変化、②注意ないし意識の変化(解離など)、③自己概念の変化(罪業と自責など)、④加害者への感覚の変化(加害者の理想化、卑小感など)、⑤他者との関係の変化(信用できない、再外傷体験など)、⑥意味体系の変化(絶望と希望の喪失など)ということだ。

結局DESNOSは取り上げられなかったが、その代わりにPTSDに「認知と気分の陰性の変化」、「無謀ないし自己破壊的な行動」を加えることで、何となくDESNOS的な症状のラインナップとなったわけだ。さて、ICD-11作成委員会では、DSM-IVのフィードトライアルの結果が参照され、やはりCPTSDは基本的にPTSDの診断を満たすこと、そしてとくにDESNOSのフィールドトライアルで頻度の多かった感情統御困難、否定的自己概念、対人関係障害の三つが取り上げられ、これを自己組織化の障害と名付けたというのだ。まあここら辺はCPTSDの成立の経緯を説明していただいているわけだが、BPDとの関連でも解説がある。そこで述べられているのが、Cloitreら(2014)の研究であり、簡単に言えば、CPTSDBPDはかなり明確に区別されるということだったという。BPDの本質的な特徴とされる「見捨てられまいとする死に物狂いの努力」「理想化と脱価値化の間を揺れ動く対人関係」「不安定な自己感覚」「衝動性」はいずれもCPTSDでは低かった…・なんということだ。また自殺企図や自傷行為はBPDでは50%だったが、CPTSD,PTSDでは15%前後だったという。このようにハーマンさんのCPTSDはようやくICD-11で日の目を見たと同時に、CPTSDBPD説は否定された形になっているのである。やっぱりね、という感じだ。