2021年3月22日月曜日

エッセイの書き直し 4

 という事でネットで調べていたら、素晴らしい文献を見つけた。Complex trauma and disorders of extreme stress (DESNOS) diagnosis. (Directions in Psychiatry. Vol 21, 2001 373-415.) これはヴァンデアコークさんが何かのワークショップに使ったものだが、素晴らしいリソースになっている。そのp.385には「DESNOSか、BPDか」という項目があるので読んでみる。私たちがBPDだと考えていたケースをよく調べると、その多くがDESNOSなのだ、と書いてある。そして太字で強調されている部分。「患者のトラウマヒストリーを詳細に聞くと、ケースの概念化と治療指針まで変わり、それが症例の提示の仕方の理解にまで及ぶ。特にBPDのトレードマークである攻撃性 hostility、情緒的な操作性 emotional manipulation、欺き deception などは悲しみ sadness, 喪失 loss、外傷的な悲嘆 traumatic grief などの真正なる感情に置き換わるのだ。」「幼少時のトラウマ体験への適応として理解することで、DESNOSBPDかの判定に大きな違いが出てくる」。えー? これはボーダーラインの患者さんを偏見なく診ることでそれまでのBPDが誤診であることが分かることが多い、と言っていることになる。

そしてさらに太字で「リサーチにより分かったのは、BPDDESNOSは重複する部分があるものの、明確に異なる状態である。」「両者は表面上は似ている。6つの領域のうち4つはしばしば共通している。」つまり慢性の情緒的な調節不全chronic affect dysregulation DESNOSでは最も顕著だが、BPDではアイデンティティと他者との関りの障害に比べて二次的である。BPDとはそもそも愛着の問題だが、DESNOSは自己調整 self-regulation の問題なのだ!!

もうこれがバンデアコークさんの出した結論と言っていいだろう。DESNOSではBPDに比べて感情の下方への調整不全が起きているdownward dysregulation という事だが、要するにDESNOSの人はより抑うつ的だという事だろう。BPDでは一時的な気分の上昇があるが、DESNOSでは気分は抑うつ的~深刻な怒り、恐怖、絶望感の間を行ったり来たりするという。とにかくDESNOSで見落とされがちなのは、陽性の気分を保つことや喜びを味わうことの難しさであるという。

一応バンデアコークさんの立場はわかった。まずハーマンさんよりもさらに幼少時の慢性的なトラウマの重要な役割を強調している。そしてBPDより抑うつ的である。つまり彼の方がより生物学的な問題に目を向けているという事か。「まとめ」にはこう書いてある。DESNOSの問題は、1.情動や衝動の調整不全、2注意や意識の調整の問題、3自己知覚、4.他者との関係の持ち方、5意味のシステム、6.身体化。そしてその重症度を調べるためのSIDESという指標があるが、実はこれについての日本語の解説もネットでダウンロード出来る。そして彼がはっきり書いてあるように、DESNOSBPDは別物、なのである。