2021年3月21日日曜日

母子関係の2タイプ 1

この論文の目的は、母子関係の二つのプロトタイプを示すことである。それは大雑把に言えば欧米型と日本型という形になるだろうが、これらが文化に特有というよりは、文化を超えて母子関係に潜在的に備わっているという仮説も含めて提示したい。

このテーマに関してはやはり私の個人的な異文化体験から出発することをお許しいただきたい。私と妻が子育てを行ったのはアメリカの中央平原にある、カンサス州トピーカという田舎町だった。大きな都市なら日本人のコミュニティもできやすいが、この町はメニンガークリニックという精神分析の世界では比較的有名な病院があるだけで、それ以外はこれと言って特徴のない小さな田舎町であり、日本人コミュニティと呼ばれるような大きなものはなかった。その代わり日本からの精神科医や心理士の数家族が精神分析を学ぶために23年の期間そこに集まり、それを中心として小さな集団が維持されていたのである。そのような米国暮らしの中で生まれた我が家の一人息子は、幼稚園から小学校に進む間、常にクラスや学年で唯一の日本人という状況が続いた。そこで私と妻は子供の成育環境を通して異文化体験を豊富に持つことになった。米国では友達同士がお互いの部屋に泊まりに行き、その送り迎えを親がすべて車で行い、お互いの家に滞在していた時の様子を簡単に報告し合うという事が頻繁に行われた。こうして子供を通して米国の複数の家族との付き合いが深まることとなった。そして日本では常識的と思われる私たちの子育てと、アメリカ人の中流家庭での子育てを、それこそ左右に並べて比べるようなことを十年以上行ったわけだ。そしてそこで私たちはとても顕著な形で両文化の違いを体験することとなった。