2021年3月20日土曜日

エッセイの書き直し 3

 さて実はこのTrauma and Recovery という本には本格的にCPTSDのことが論じられているわけではない。今回読んでみて改めて分かった。やはりCPTSDの名を広めるのに一番大きかったのは以下の論文だろう。Complex PTSD: A Syndrome in Survivors of Prolonged and Repeated TraumaJournal of Traumatic Stress, Vol. 5, No. 3, 1992 pp.377191)である。実はこの発表はTrauma and Recovery の出版と同年であるから、この概念はそれなりに温めていたのであろう。そう言えばアメリカにいるときこの論文に触れて興奮したのを覚えている。今ではネットで無料でダウンロードできる。彼女はこれがDSM-IVDESNOS(ほかに分類されない極度のストレス障害)という名前で掲載されることが検討されているという。現在のPTSD概念は単回性のトラウマに対する反応として概念化されているが、実は繰り返される慢性のトラウマにより引き起こされるものがあるのだ、というのが趣旨である。結局DSM-IVにはDESNOSCPTSDも掲載されなかったのだが、ここで問題なのは、このハーマンさんの論文に、あるいはバンデアコークさんが中心になってまとめたDESNOSに、どの程度「ボーダーラインらしさ」が組み込まれているかである。これは興味深い。という事でこの1992年の論文をざっと読んでみる。

論文では次のような構成になっている。まずCPTSDは症状が多様に出現するとして、それを身体症状、解離症状、情動的な変化と説明し、それから性格の変化の記述へと進む。Characterological Sequelae of Prolonged Victimization ちなみにこれらの記述は、主としてprolonged captivity において生じる症状であり、小児の虐待状況という言い方に限定していないのがこの論文の特徴という気がする。

そして性格の変化という事でいくつかの項目が出てくるが、最初は「他者との関係の病的な変化」として強烈で不安定な関係性がしばしばみられ、もっともそれを典型的に表すのがBPDであるという記述がみられる。そこには孤独への耐え難さと他者の耐え難さが共存するという。そしてハーマンは、同じようなことはMPDについても言える、と主張する。

次に出てくるのが「アイデンティティの変化」。ここにもBPDMPDが出てくる。後者ではいくつかの部分が人格を形成するが、前者ではその能力がないために、スプリッティングの形をとるのだ、という言い方だ。ここら辺でもBPDMPDの論法が目立つ。そして最後の項目が、自傷がその後も続くという記述である。そしてこのような診断が大切なのは、これをパーソナリティ障害と見誤ることだ、と書いてある。つまりBPDという診断がすでに見下したような診断であり、そのように診断されるべきではない、と言いつつもCPTSDの症状はBPDに頻繁にみられると言っている。果たしてBPDCPTSDと違う、と言っているのか、後者が前者を含む、と言っているのか簡単には判断できない。ただしCPTSDBPDがとてもちかいかんけいにある、ということはニュアンスとして伝わってくるのだ。

こうなってくると今度はDESNOSの記載が気になってくる。