2020年9月24日木曜日

治療論 2

 そこで「転回」の論文で提起されていることはいったい何であろう? Itzkowitz 先生はこの有名な論文「解離的な転回」の冒頭(というよりは抄録)でこんな風に書いている。

「解離的なプロセスの出現や、解離的な構造を可能性として持った心、複数の、不連続的な意識の中心により特徴づけられた心の生まれる鍵となる要因は、幼少時に現実に起きたトラウマである。」断片化された患者の分析的な治療到達点は、それらのコミュニケーションを図ることである。
 しかしこれほどさらっと書いている割には、具体的にどのように論じたらいいかがわからない。そこで彼に代わって論じてみたい。
 Itzkowitz の言う「不連続な意識の中心」という考えは、これだけでも従来の意識に関する精神分析的な考え方に対するの持つ意味を大きく変えることになるであろう。この議論に対する一つの有力な考え方が、Stern, Bromberg らにより提出されている。それは彼らの言うMultiple self state 多重的な自己状態という事になる。彼は「治療のゴールは、いくつかの部分の統合を達成するよう努力することではなく、自分の複数の自己状態への反省的な気付きを維持する能力を高めることだ。と言っている。しかしこの考えは、例えば抑圧やスプリッティングにより分けられていた心の部分に対する向かい方とは大きく異なる、というより正反対であるとみることもできる。
 結局は「解離的な転回」を取り入れることは精神分析理論を真っ向から否定することになりかねない。その代わりに考えるべきことは、スペクトラム的な考えを導入することであろう。
 一つには一元的な心 monothetic mind と多元的な心 polythetic mind との間のスペクトラムを考えることである。(後述)