2020年5月7日木曜日

トラウマ難治例 8


考察
以上の考察が示すことについてまとめてみよう。私たちはトラウマケースに「重ね着」される可能性として、発達障害、PD、気分障害、解離傾向などを見た。これらの多くが、早期のトラウマの深刻さと生来の気質の組み合わせから成り立っているという事実も理解した。
単純化して考えるならば、トラウマケースはその「重ね着」の状態が深刻になるほどに難治例として私たちに立ち現れるということが一般に言えるだろう。極端な場合にはASD 傾向やBP を有し、抑うつ傾向や解離傾向を併せ持ち、なおかつ現在進行形でトラウマ状況にあるケースということになる。あるいはさらに正確に言えば、そのような「重ね着」状態を理解することなく、それらに対する治療的な関りを怠ることで、さらにそのトラウマケースは難治例とされるということになろう。問題はこれらの問題をどれだけ「重ね着」するかがトラウマケースの難治性の実態なのだろうかということである。残念ながらその問題について包括的に論じたものを寡聞にして知らない。
ここからは私見を述べさせていただく。私たちはおそらくトラウマ難治例に関して、大きく分けて二つの種類の「重ね着」状態を見ているのではないだろうかと考える。一つはBPを備えたタイプであり、それはおそらく必然的にASD 傾向を併せ持つからであろう。他者をよそ者と見なしてしまうというBPの傾向は、ASDによる「相互の対人的情緒的関係の欠落」によりより深刻な問題を呈するはずだからである。そしてこのタイプは、いわば外部に敵を見出し、感情を外に向ける傾向があるという意味では、外在化タイプの難治例と呼ぶことが出来よう。
他方では、解離の病理が抑うつと結びつくことによる難治例にもしばしば遭遇する。私が日常的に出会う多くの解離のケースから感じるのは、彼らが最も難治になるのは、抑うつによる引きこもりの場合である。それらの多くのケースが回復に向かえない更なる原因は、抑うつ症状により社会機能が低下して自宅から出られないことで、援助者やパートナーとの出会いの機会も持てないことであろう。こちらのほうは、いわば内在化タイプの難治例と言えよう。
もちろんこの両者の併存状態、例えば解離性障害においてBP ASD 傾向が併存する場合もあろうが、解離性障害を有する傾向の人たちの常として、他人の気持ちを分かりすぎる、という問題があり、それはASDBPとはむしろ反対の傾向と言えるのである。
これらのタイプに大まかに分類することの意味は小さくないだろう。一般に外在化タイプの場合には、MBTMentalization-based treatment )などのアプローチが意味を持つであろう。内在化タイプの場合には暴露療法はあまり適さないという方針はおおむね妥当と言える。むしろ支持的なカウンセリングや抗うつ剤による治療が大切である。
しかしいずれのタイプでも重要なのは、現在の生活でのトラウマへの暴露や対人間のストレスに注意を払うことである。現在進行形のトラウマは内在化タイプでも外在型タイプでもそのトラウマケースを難治にすることは疑いない。