2020年5月29日金曜日

解離と他者性 1


私の関心は新たな人格部分の形成の瞬間であるが、なかなかその問題についての考察を目にすることがない。最近柴山雅俊先生が監訳されたElizabeth Howell Dissociative Identity Disorder -A Relational Approach (2011)という本に、解離に関する神経生物学的な視点についての章(第6章)が設けられている。そこでこの章を手掛かりに彼女のいう解離の「生物学的な相当物 neurobiological correlate」に耳を傾けてみよう。Janet が言うように、トラウマの際は、感情的な高ぶりによりその時の記憶が統合されない、という議論がある。van der Kolk さんが1980年代に唱えたこの議論は一つのセンセーションを巻き起こした。いわゆるエピソード記憶に代わって、トラウマに関する感覚的、情動的な記憶(トラウマ記憶)が体に刻印されるという理論は、トラウマを理解するうえでとても参考になる。私もこの理論に接した1991年ごろには夢中になったものだ。解離という心の問題に脳の仕組みが深く関与していることを知るのはとても新鮮だった。しかしこのことと解離において生じる他者性とはどのようにつながってくるのかというのが今一つ不明である。私たちがある特殊な状況でエピソード記憶を形成できないということと、別人格の成立には長い因果関係の連鎖があり、それを追うことは決して容易ではない気がする。
むしろ私だったらこう説明したい。トラウマ体験の際には、そこでの記憶は脳の別の場所に貯蔵され、それが一つの形を成すと人格となる。つまりバラバラになり、感覚的な記憶のみになっていると思われた記憶は、別の心の世界ではしっかりとエピソード記憶になっていて、それがチラ、チラとこちら側から部分的に見えるのが、外傷記憶と私たちが呼ぶものなのである。