ミラーニューロンの存在が問いかける問題の一つに、自己と他者の区別、そして思うことと行動することの区別との関係性のテーマがある。考えてもみよう。他人がコップを取り上げるときに反応したミラーニューロンは、もちろん自分が取り上げるときも反応し、また自分が取り上げることを想像した時にも反応する。ということは、それが行動に移す経路、つまり運動ニューロンが抑制されることによりそれが想像か現実が区別され、またミラーニューロンに「これは自分ではない」という信号が送られることで他人に起きているということが分かる。それはそうだろう。これらは体験としては全く異なることだし、それ以外の知覚入力は全く異なるからだ。あえて図にするとこうなる。
おそらく赤ん坊がまず体験するのは、自分が想像しているのと、実行しているのは異なる、という体験だろう。これは現実と空想の区別であるが、それはミラーニューロンにどのような知覚入力がまとわれているかにより直感的に区別できるようになるのだ。そして同様のことは自分がやっているのか、他者なのか、ということについてもいえる。つまり共通したミラーニューロンが興奮することで、それがどのように三種類の体験に分かれるかを切り分けることを通して、子供は想像と現実の区別、自己と他者の区別を同時に行っていくことになる。