2020年5月25日月曜日

ミラーニューロンの不思議 13



そしてもう一つミラーニューロンの特徴は、それが常にフィードバックを受けているということだ。あるミラーニューロン(運動前野)をM’とし、それが連結している運動ニューロンをMとする。M’Mはそれによる筋肉の動きが生じ、その感覚が伝わることですぐにわかる。ただしこれは正確にはM’MPで、PからのフィードバックがM’に戻るという形だろうか。というのも私たちは通常Mからの反応を受けないようだからだ。例えば言い間違いだ。もしmのつもりでnと言ってしまった場合、通常は私たちはその音を聞いてから間違いに気が付く。もしその種のフィードバックがない場合は、私たちはそれを容易に看過してしまう。例えばものすごい騒音のところで誰かと電話で会話をすると、自分の声が聞こえなくてとても不安になるということがある。
ではMからM’へのフィードバック(M’M)はなくていいのだろうか?ここが最大の問題だが、おそらくこれが存在するであろう、というのが1112で紹介した事実である。それはMTMS(経頭蓋磁気刺激)で妨害した場合に、M’が失調してしまうらしいということがあるからだ。おそらくMは無反応(M(0)と表示)でも構わない。そうすることでM’が失調することがないのは、mという運動を想像だけするというのは本来そういう現象だからだ。ところがMからの異常信号(例えばM()と表示)はM’を失調させる。つまりはこういうことだ。M’Mからのフィードバックが(無反応であることも含めて)正常であることでM’であることに自信を深める。M’M(1/0)ではM’は失調しないのだ。
 それは例えば感覚において、Pという知覚とP’という表象(まあ、近くにおけるミラーニューロンと言っていいだろうが)をつかさどるニューロンとの関係と似ている。pを想像するだけなら感覚皮質上のPの細胞は何も反応しないはずだ。これを仮にP(0) と表示しよう。つまりP’P(0) は自分が想像しているだけだ、という感覚を生む。
ところでここが問題なのだが、赤ん坊がマルチモーダルな体験を持つということは、このP系とMけいがM’をハブとして連携しているということなのである。例えば日本人が不得手なrを聞くことと、それを発音すること、などを考えればわかる。そしてM’の失調が、Pの感覚入力を危うくするということだ。言い直すとミラーニューロンの失調は感覚皮質や運動皮質からの異常入力M()またはP() で容易にその体験を不安定にしてしまうということだ。