もう少し具体的に考えよう。赤ん坊がそれと知らずに何かいたずらをして、母親がそれを見て怖い表情で「ノー」と言われたとする。赤ん坊はこれをマルチモーダルに体験するだろう。まずはノーという声が耳から聞こえている。母親の怖そうな表情も、口の動きも見えている。赤ん坊はもちろん最初は意味が変わらないが、それが繰り返される度に赤ん坊の脳は母親の表情や声や口の動きを模倣すべくプログラミングを行う。もちろん無意識のプロセスだ。その結果として母親の「ノー」を聞くことで、母親の表情の視覚像、口の動きの視覚像、そして赤ん坊自身が「ノー」と発音する際の声帯や舌の筋肉の運動につながるミラーニューロンがまとめて興奮するようになる。しかも、である。ミラーニューロンが「ノー」の発音準備をするとき、運動野の対応する部位を抑制すると、その体験の統合性が損なわれる。
運動前野での「ノー」は、ただそれだけが興奮するのではなく、運動野での「ノー」を実際に発音する際の運動神経ともおそらく緩いつながりを持っているのだ。ここら辺が一番微妙なところかもしれない。図で示そう。