2020年3月11日水曜日

揺らぎ 推敲 12


1章 脳は揺らいでいる

話は脳波を発見したドイツの神経学者ハンス・ベルガーに遡る。もう100年も前の話であった。彼は人間の頭皮に電極を付け、きわめて微小な電気活動が起こっていることを発見した。ごくごく小さな揺らぎの発見である。そして彼は1929年の論文で、「脳波を見る限りは、脳は何も活動を行っていない時にも忙しく活動しているのではないか」という示唆を行った。何しろ脳波を見る限り細かいギザギザが常に記録されているからだ。もしこれがフラットに(一直線に)なってしまったら、それは脳が死んだことを意味するくらいである。
しかし世の医学者たちは、脳波が癲癇の際に華々しい波形を示すことに注目したり、睡眠により顕著に変わっていく波形の変化に注目する一方では、それ以外の時にも絶えずみられる細かい波のことは注意に止めなかった。ここで皆さんは雑音ないしはノイズについての議論を思い出すだろう。ノイズはそれが揺らぎとして抽出されるまでは、ごみ扱いされるという運命にあったと述べたが、それは脳波でも同じだったのだ。
 以上、神経細胞という単位ごとに、そこで発生する電気的活動の持つ揺らぎという問題について論じた。しかし脳の活動全体を考えると、一つ一つの細胞自体は極めてローカルで起きている出来事と言えよう。私が何度か用いた地震の比喩を取り上げるならば、脳の活動全体が中等度の地震のサイズだとすると、神経細胞の電気活動は、それこそ砂粒にたとえられるだろう。しかし巨大な岩盤の揺らぎである地震が実は砂粒の動きと連動しているのと同じように、脳の活動も個々の神経細胞の活動に帰着することができる。ただそのスケールがあまりに違いすぎるので、神経細胞の揺らぎから心の揺らぎを論じることにはあまりにも大きな話の飛躍がある。
William Calvin "the Cerebral Codes" より

心の揺らぎについては第3章で論じるとして、ここでは神経細胞の揺らぎに話をとどめておきたいが、次のレベルとして私が挙げるのが、大脳皮質の円柱、コラムという単位である。
神経細胞 → マイクロコラム(円柱) → 機能円柱 → ~野(運動野、など) → ~葉(前頭葉、など)

大脳皮質は厚さ2.5ミリほどであり、それが6層の構造からなる。このコラムは大脳皮質のいたるところで見られる。感覚をつかさどる一次体性感覚野や、運動をつかさどる一次運動野などでもそうだ。直径0.5mmほどのコラムには 約10万個もの神経細胞があるが、その詳細な構造や機能はまだよく分かっていないという。
その構造をもう少し細かくみると、「ミニ円柱(minicolumn)とよび、2540μmほどの大きさの集合であることがわかる。人間の大脳には200億個のニューロン2億個のミニ円柱があるというから、その数はとほうもない。
1つのミニ円柱は約100個ほどの神経細胞により構成される。さらに、このミニ円柱が100個ほど集まったものが機能円柱と呼ばれるものだ。つまりコラムは、神経細胞の10010000個の塊で、地震の比喩では小石くらいの大きさの塊と考えることができる。