第1章 揺らぎの歴史
今でこそ揺らのテーマは大きな関心を集めるようになったが、もちろん揺らぎ自身は宇宙が始まって以来永遠に存在してきた。宇宙の始まりと言われている「ビックバン」は138億年前に生じたと言われているが、最初にして最大の揺らぎ、超々々大波だったかもしれない。(ただしそれ以前に「ビッククランチ」があり、それ以前に存在していた宇宙が大収縮して一点に集まったという説もある。ビックバンはそこから始まったというのだ。すると宇宙は結局収縮と膨張を繰り返しているという説、すなわち「振動宇宙論 oscillatory universe theory」と呼ばれるもので説明されることになる。つまり宇宙は悠久な時間の流れの中で、広がったり収縮したりという揺らぎを繰り返しているだけかもしれない。気の遠くなるような話だが。
ともかくもビッグバンは大変な激震だったわけであり、それにより起こされた擾乱が揺らぎとして全宇宙に、そして量子レベルでの微小の世界に存在し続けているとも言われる。それが宇宙背景放射と呼ばれるものだ。そしてそれから138億年たった今でも、宇宙も私たちの住む地球は、気温は、気圧は、海水温は、あるいは地震計の示す波形さえも揺らいでいる。また私たちの体の体温も、血圧も、脈拍数も、脳波もゆらいでいる。科学やテクノロジーが進んだ現代ではこれらの揺らぎの存在は常識の範囲内かも知れないが、いったんその理由を問い出すと、その明らかな起源など誰にもわからない。ただ宇宙は、現実世界はそうなっているとしか言いようがないのである。
揺らぎは最初は「ゴミ扱い」だった
このように揺らぎは常に存在していたにもかかわらず、それが話題に上るようになってからはまだ半世紀も経っていない。その意味では私たちは最近になって揺らぎを「再発見」したのである。では揺らぎという概念が生まれる前、揺らぎは私たちの目にはどう映っていたのだろうか? 実は人類は長い間、万物が揺らいでいることを知らなかった。そもそも細かな揺らぎを見出すためには正確な基準が必要になる。しかしたとえば時間に関しては16世紀の終わりにガリレオ・ガリレイが振り子時計を発明するまでは、正確な時間の計測は一般人には全く不可能だった。だから脈拍数が揺らいでいることなど知る由もなかっただろう。何しろ人間の脈拍を比較的正確なものと見なし、時計代わりに用いる場合すらあったのである。
ただしそれでも少し注意深い人であったら、脈拍は呼吸の影響を容易に受けていることがすぐにわかるだろう。前腕やこめかみに指を当てて自分の脈を取ってみれば、息を吸い込んでいる時は脈拍数が少しだけ上がり、吐き出している間は少し下がることが確かめられる。肺が酸素を吸い込んで血液が酸素を運ぶ効率が上がる時には脈を上げ、下がる時は脈も下げるという風にして、人間の体は省エネをしているわけだ。ところが少し注意をすれば見出すことのできるこの脈拍の揺らぎも、意味のないノイズ、雑音とされていたわけだ。私たち人間は説明できないものは要らないもの、相手にしなくていいものとする性質がある。