2019年12月25日水曜日

揺らぎ欠乏と発達障害 6


ではどうして発達障害の人はパターンを変えるのがそれほど苦痛なのだろうか? どうしてキャベンディッシュは、毎日決まった時刻にグラハム・コモン地区の家から出て、ドラグマイヤー通りからナイチンゲール通りを数マイル歩くというコースを生涯にわたって変えようとしなかったのだろう? 単純に考えれば、変えることが不快だったからだ。これは一種の固着とでも言うべき現象であり、これまでのやり方と同一のパターンを繰り返すことが一種の快と感じられ、それから外れることは不快や不安を呼び起こすのだ。ここにはおそらく深い生物学的な仕組みが関与していることだろう。下等生物で、ある決められたパターンを繰り返すという場合には、それが遺伝に組み込まれた、ある種の本能としての意味付けを有する。それは一定のパターンを守れば快、外れれば不快というかなり明確な条件付けが生まれつき成立していることにより守られていく。そうでなくては生殖というきわめて手の込んだプロセスを踏むことが出来なくなってしまうのだ。
ミステリーサークルならぬ、アマミホシゾラフグの産卵巣
この写真は2014年に発見されて話題になったフグの一種の作り上げる産卵巣だ。海底に見事に描かれた砂の芸術に、最初の発見者は一種のミステリーサークルのような不思議な印象を得たようだが、やがて新種のフグが一週間かけて作り上げることが判明した。このフグのメスは、オスが作った出来栄えが見事なこのサークルをみると、引き付けられたようにその中心に陣取り、そこで産卵をする。しかしこの見事な産卵巣を作る雄たちは、誰からも手取り足取り教わったわけではないだろう。ある時期と条件が整えば、憑かれたように一心にこれを制作するであろうし、おそらく少しの誤差もゆるがせにしないだろう。少しでも歪んでいたり、対称性が損なわれていたら、メスたちは他のオスのサークルの方に行ってしまうからだ。私たちがある行動を起こす際にも同様の機制が働いているのであろう。
このフグほどではないにしても、ある動作にこだわりを持つというのは実は私たちのほとんどが多かれ少なかれ持っている性質と言える。部屋に入った時に正面にかかっている絵の額縁がわずかに傾いでいることに気が付いたとしよう。何となく落ち着かなかったり、苛立ったりする人の方が多いのではないだろうか。それでも他人の家の部屋なら見て見ぬふりをするだろうが、それが自分のオフィスや自宅の居間であったらさっそく「正しい位置に」直すだろう。同様に机の周りにゴミが散らかっていればすぐに片づけたいと思うのはむしろ普通だ。ところが同居人がそれを気にしなかったり、それにいちいち注意を払うあなたに逆に苛立ちを覚えるとしたら、両者の共同生活はそれだけギスギスしたものになる。そして発達障害の人には、その種のこだわりを通常の何倍も持っている場合が多い。