2019年11月6日水曜日

脳細胞は揺らいでいる 推敲 1


脳細胞は揺らいでいる

この第2部では、モノの揺らぎの問題から心の揺らぎの問題へと至る中間地点の、脳細胞の揺らぎの話だ。その中でもまず、脳細胞自体の揺らぎについて考える。
無生物の揺らぎから生物の揺らぎへと視点をうつした時に持った疑問を思い出していただこう。ブラウン運動に見られるように、水の中で細かに揺らぐ墨汁の細かい粒子は無生物だ。しかし細胞の中で揺らぐタンパク質は無生物だろうか? どうやらそうとも言えないようだ。そう、細胞とは物質と生物の間に位置すると言っていいのだ。(○○章の、「ICEMS」の話を参照。)
それと同様のことが生物と心との関連を考える際にも言える。その場合両者をつなぐ役割を持つのはおそらく神経細胞だろう。神経細胞が一つあってもまだ心を形成するとは言えない。でも数百集まった場合には心は宿っていないのだろうか? カエノラブディティス・エレガンスという線虫は1000個程度の体細胞のうち、302個が神経細胞であるという。方や1000億の神経細胞を持つ私達とは比べようもないものの、そのあたかも目的を持ったような動き、刺激に対する回避傾向などは、心っぽいものを感じさせなくもない。方や心筋細胞などは、それが何億集まって心臓を形成したとしても心を宿すことはない。ということは神経細胞は生命体と心の中間に位置するものと考えても不思議はないだろう。
そこで脳の神経細胞は、何もしていないように見える時でも、自発活動を行っている。それにエネルギーの78割を使っているという。たとえるならば神経細胞は一つ一つがエンジンのようなものだとすると、それらはすべてアイドリングの状態で動き続けているのだ。ギアが入ると、活動的に発火し、他の神経細胞との信号のやり取りをするが、そうしない時でも「エンジンはかかって」いる。だから神経細胞に極小の電極を差したならば、常にそこから電気信号が拾えることになる。ただし大きな信号ではなく、まるでノイズのように低く、小さく活動をしている。そう、これは○○章で示したように、最初は単なる「雑音」として扱われていたのだ。しかし研究が進むにつれて、それは全くのデタラメではなく、一定のパターンを持っているかのようだ。つまりこれも「揺らぎ」である。これが「揺らぎ」なのは、脳神経細胞は、こうすることで死と爆発の間をさまよっているというわけだ。死、とは脳波がフラットになり、神経細胞からは何も動きが見られない状態であり、爆発とはそれが大音量で、周りの細胞を巻き込んでその活動をマックスにした状態で、それは癲癇大発作に見られる。そのどちらにも偏ることなく神経細胞はその両極端のあいだをフラフラ揺らぎつつ、本来の活動である「時々発火する」をする準備状態を常に整えているという事だ。