2019年11月4日月曜日

カオス 推敲 2

  さて以上は二つの天体の間に見られる比較的安定した動きについてであったが、これが三つの天体になると、途端に「カオス」が始まる。つまりその動きはたちまち予測不可能で、繰り返しのパターンを作らなくなってしまうのだ。と言っても三つの天体が等距離で静止しているという奇跡的な状態であれば、あるいはそれらの重心を中心に全体が回転しているのであれば「カオス」は起きないのだろう。しかしそこにひとたび外力が加わると、そこでの動きはけっしてくりかえしをおこさない。つまりある場面での3つの天体の状態と全く同じ状態(それぞれの天体の間の距離、速度、運動の方向も含めて)には決してならないという事だ。
  もしある時点Xからある時間がたって Y という時点でまったく同じシーンが現れたとする。するとそれ以降はそれらの天体の動きをことごとく言い当てることが出来る。なぜなら X から Y までの動きを未来永劫繰り返すことになるからだ。ところがそれが起きない。これが「カオス」の特徴だ。先ほどの数字の話と同じだ。しかしこのことが1890 当時にポアンカレが発見するまでは話題にならなかったというのは実に不思議なことだ。
   ホワンカレにより先鞭の付けられた「カオス」の概念は、ある意味ではコロンブスの卵のようなところがあったのだろう。それまで私たちは、物体や様々な値の動きが一見バラバラなのは、それが純粋ではないから、雑音が混じっているから、という程度にしか考えていなかった。いろいろな条件を整えたら、物事は秩序正しい運動を見せるのだろうとたかを括っていたのである。ところが他に重力の加わらない空間で、たった三つの物体の運動を考えても、「カオス」が起きてしまう。その軌道を追っても決して重ならないのである。つまり余計なもの、不順なものを排した状況でも「カオス」は起きてきてしまうというところが面白いのだ。
 私が個人的に好きな「カオス」の例は、二重振り子である。

これは三体どころか一つの関節を持ったただの振り子である。二重振り子はその振れ幅が小さいうちは定常的な振り子運動を示す。しかしその振れ幅が一定限度を超えると、たちまちカオス的な動きを示すようになる。その軌跡はまさに予測不能であり、決して重複をすることがない。