2019年7月21日日曜日

冪乗則と揺らぎ 3

この説明からわかることは次のことだ。揺らぎとは、実はこのロングテールの長い尾で起きていることなのだ。何しろここが圧倒的に長いので、揺らぎはそれ自体が本体部分と見なされるが、実はとんでもない動きをする可能性を持っている。何しろ揺らぎは正確な正弦波や同じサイズのジグザグではない。それは時に大きく、時に小さくなり、突然とんでもない大きさの揺れを可能性として含む。ここで「可能性として」というのは、それは実はめったに起きないからだ。でも起きる時は起きる。そんなことが起きてもおかしくないことを予告するかのように、揺らぎは最初から不規則で、ある意味では思わせぶりで予想が不可能なのだ。ここら辺は、株価の動きに敏感な人は良くわかるだろう。
地震の話に戻って考えよう。地面は常に揺らいでいる。それはおそらく地殻のどこかで小さな岩がずれるということが起きているために起きる。つまりはプレート同士が少しずつズレながら動いている、という、ある意味では不安定な状況が生じているからだ。(地殻やプレートが全く動いていないのであれば、地震など起きようもない。)
さて小さな岩のずれはいたる所で起き、大抵はそれで収まってしまう。微震としてすら観測されないかもしれない。ただし稀に、近隣の別の不安定な岩に波及して、いわば連鎖反応を起こすことがある。これが起きるのはある意味ではすべての岩が同じように不安定だからだ。するとその二つの岩が動くことでその安定が治まることになるだろう。大抵の場合は。ところがそれが三つ目の岩を巻き込んだ少し大きな揺れで収まる場合も出てくる。そして稀に、それが四つ目の岩を巻き込んで少し大きな動きを起こすこともある。小さな地震と言ってもいい。すると・・・・、実に劇的なことが起きかねない。それは別の場所の同じような連鎖反応を起こしかねない。そんなことはめったに起きることはないが、起きる時は起きる。こうしてその極端な例が巨大地震となる。そしてその時に連動して動く岩のサイズと、その起きる頻度にはある重要な関係がある。つまり両方の対数を取ると逆比例しているのだ。これがグーテンベルグ・リヒター則というわけだ。
とまあなんとなくわかったような説明をしたが、実はこれでは本当に分かったことにならない。もう少し頑張ってみる。
先ず小さな岩が動く、という言い方をしたが、この「小さな岩」が曲者だ。その平均の大きさは? おそらくそんなものはない。先ほどの天体の大きさと同じ議論により、岩の大きさに典型的なものはない。まあ「岩」と言えば数センチから数メートルくらいを言うだろうが、それはそのくらいの大きさの石を岩と呼んでいるからだ。この世界の鉱物をすべて集めて行列を作ったら、天体と同じようなロングテールを作るだろう。それを言い出したらどうしようもないので、ここは最小の単位を考えざるを得ない。そこで直径0.1ミリの砂粒を最小単位とする。岩石はそれが固く押し固められたものだ。そして最初に岩がずれて動いたというシーンをビデオに収めよう。そのビデオは時間を延ばしたり、対象を拡大したりすることが出来る。するとおそらくずれた岩と岩の間で起きていることにズームインすると、それは岩全体が突然動いたのではなく、最初はこぐ微小なずれによる破片の生成が、ズレた部分のどこかで起きていることがわかる。ズレが起きた数センチの部分をさらに拡大してみると、そのうちのごく一部がまず最初に動き出して、それが全体に波及したことがわかる。さらにその部分を拡大してみると・・・・。結局は最小単位である砂粒大のずれが起きていたことがわかる。そう、この最初の岩のずれは、ミクロのレベルで見れば大地震なのであった。もしそこに住んでいるアリがいて、その体験を語ってくれたら、「いえね、いつもちょっとした揺れなら起きているんですよ。でもあんな大きな揺れは久しぶりでした。ここで起きている揺れは大体ロングテールですからね。あんなのはめったにありません。」アリ君がどれだけ賢いかわからないが、一つ言えるのは、ほんの小さな岩の揺れは、彼らにとっては大地震だったということになる。
ここで少しまとめてみよう。ある状態においては、そこに存在する粒子が同じように不安定であるとする。すると最小の単位のずれ、ないし動きが連鎖反応を起こす可能性がある。そこではより大きな粒子に連鎖する可能性は急速に減っていくが、それでも起きることは起きる。その急速に稀になっていく仕方が、冪乗則に従うということだ。