実はこの冪乗則が実感としてつかめずに、私はここ10年くらい悩まされているのだ。ご存知の方もあろうが、これはフラクタルの問題と同等である。マンデルブローの幾何学図式は何処まで拡大していっても自己相似形が続いていく。つまりその図式のサイズを小さくしていけば、そこに含まれる相似形の数は無限大に向かっていく。その場合グーテンベルグ・リヒター則は完璧に成り立つわけだ。でも自然現象はマンデルブローの図形とは違う。それは地震の規模がある範囲においてのみフラクタル的な分布をするはずだ。それでも部分的にではあれ冪乗則に従うものは自然界にあふれているのだ。
私の愛読書の一冊に、「歴史は『べき乗則』でうごく」というのがあるが、英語の原題は“Ubiquitous” (遍在)である。つまりどこにも見られるというわけだ。自然のどこにもかしこにも見える冪法則。世界に遍在していて、それがようやくここ数十年で理解されるようになって来たのはどうしてだろう?
ここからしばらくは私の思考実験が延々と続くことをお許しいただきたい。
ここからしばらくは私の思考実験が延々と続くことをお許しいただきたい。
たとえばこんな感じだ。天体の大きさにはおそらく冪乗則が成り立つ。すると、この世に存在する天体を一列に並べて1,2,3・・・と番号を振る。あなたはその天体の一つ一つのサイズを測り、その平均値を取ろうとする。そこでそして順番に一つ一つ登場してもらう。最初はどのような計測装置が必要かわからなかったが、登場する天体がみな余りに小さく、目に見えないくらいなので、顕微鏡が必要になることがわかった。なぜなら天体の大多数は、目に見えないほどの宇宙のちりだ。いわゆる「宇宙塵」と呼ばれるものの大きさは、0.01マイクロメートルから10マイクロメートル程度であるとされる。すると土星のリングなどに含まれる塵などが数としては圧倒的に多く、それらの行列が延々と続くことになる。ところが時々、ごくたまに米粒大の天体が現れて、びっくりする。顕微鏡で見なくても、定規ではかれる大きさだ。そしてその作業を延々と、気の遠くなるほどの時間をかけて続けると、何年かに一度、それこそとんでもない大物が紛れ込む。数センチ、あるいは数十メートルというものも、ごくごくまれに登場する。そしてもっともっとごくまれに、とんでもない大物が出てくる。木星の衛星くらいになると、79個あるものの大きさは数キロ程度だという。しかしそのような大物が現れるのはごくごくまれで、また延々と塵が続いていく。あなたは気がついたらもう100年も計測を続けていて始めて、なんと月が登場する。そういえば月も宇宙の天体のひとつだ。ということは、地球も太陽も・・・・。しかし毎日塵レベルの測定に没頭されて、気がついたら数光年が過ぎて、ようやくある塵の次に地球サイズの天体が現れる・・・・。
ここでネットの力を借りたら、日本の天文学者がとんでもない巨大天体(「ヒミコ」)を発見したとある。ウィキ様に登場してもらう。
「ヒミコはハワイのすばる望遠鏡で大内正己によって発見された。発見された場所はすばるXMMニュートンディープサーベイフィールドであり、この範囲で他の207個の銀河候補とともに見つけられた。・・・データに基づけば、この天体は『早期宇宙で次の大規模な物体に比べ10倍以上の大きさで、太陽質量の400億倍の質量』を持ち、『大きさは5万5千光年でわれわれの銀河の半分くらいの直径』を持つとされている。なお、距離については巨大ブラックホールや銀河衝突の影響によって赤方偏移の数値が変わる可能性がある。ヒミコの発見によって、宇宙の初期に現代の平均的な銀河と同じ程度の大きさの巨大天体が存在したことになった。・・・・・」(ウィキペディア、「ヒミコ」)
「太陽の400億倍の質量」とサラッと言うけれどどうなのよ、と言いたい。そしてこの想像上の天体の列を考えると、冪乗則のニュアンスがつかめるのではないか?大きくなるにしたがって出現頻度はそれだけ少なくなる。大きさと頻度の両方の対数をグラフに描くと直線が得られる、とは実はそういうことだ。そして私たちの生活にこのような例はいくらでもある。いきなりトブが、私たちが有する所得について考えよう。人が持つ所得の行列を考える。するとおそらくほとんど一文無しの人の列が延々と続いて、たまに小金もちが並んでいる。かと思うとごくごくまれにそこそこのお金持ちがいる。そしてその額によってそのお金持ちのレア度が増していく。ごくごくごくまれに億万長者が混じっている。あるいはCDを売れ行き順に並べる。すると自費で出した売れないCDの列が延々と続き、時々ヒットが混じっている。そしてヒットの大きさと同時にレア度が増していく。
それらを暇な人が売り上げ順に並べると、以下のような表ができる。これがいわゆるロングテール(長い尾)の図式で、左端に行くほど天体の大きさ、所得の大きさ、CDの売れ行きは小さくなり、該当する天体、人、CDの数は莫大になる。他方右端はおそらくとんでもなく永遠に続いていく。
それらを暇な人が売り上げ順に並べると、以下のような表ができる。これがいわゆるロングテール(長い尾)の図式で、左端に行くほど天体の大きさ、所得の大きさ、CDの売れ行きは小さくなり、該当する天体、人、CDの数は莫大になる。他方右端はおそらくとんでもなく永遠に続いていく。