「冪(べき)乗則」の世界と揺らぎ
揺らぎとは実に不思議な現象だが、その背景の一つとしてとても大切な仕掛けがある。それが冪(べき)乗測
power law と呼ばれるものだ。この世は冪乗則が支配しているといってもいいが、それが揺らぎの本質につながっているかどうかはわからない。しかし確実にその一つの原因としてかかわっていると考えるしかない。そこでしばらくはこの不思議な冪乗則の話になる。
揺らぎの基本的な例として、地面の動きを考えよう。極めて繊細な地震計を設置してその動きを観察する。以前は地震と言えば人が体感するものを指していたが、最近は「震度ゼロ」の地震、すなわち地震計にのみ感知され、体感はされない地震も含めている。そして分かったことは結局は微震も含めた地震は常に起きており、私たちが体験したり、災害を引き起こしたりする地震は、そのうちの例外的に大きいものなのだ、ということだ。「揺らぎ」という言葉を用いるならば、大地は常に「揺らいで」いるのであり、地震はそのうちの特に大きな揺らぎだということになる。ではいつ大きな揺らぎが起き、それがどの程度予測可能かということについては、実はよくわかっていないのだ。
グーテンベルグ・リヒター則 |
こんな風に書くと地震とは予測不可能ででたらめな動きを示すような「揺らぎ」である、という感じがするだろう。ただし実はこの地震について、驚くべき事実がわかっているのだ。そしてそれがこの「冪乗則」ということと関係している。例えば皆さんにはこんなことが理解できるだろうか?
1.地震の大きさに「典型的なもの」ないし「平均の大きさ」はない。(あえて平均すると限りなくゼロになってしまう)
2.地震の大きさとその頻度は、それらを対数で表すと直線状に並ぶ。
つまり地震の大きさは実はでたらめではなく、極めて整然とした秩序とともに起きているということなのだ。
実はこのうち2の方は、いわゆる「グーテンベルグ・リヒター則 Gutenberg–Richter law」、つまり地震の発生頻度と規模の関係を表す法則として知られている。片対数グラフで表すと直線関係になるという関係があり、この世界では有名な発見であった。
この2の問題の意味を突き詰めると1もおのずと理解される。このグーテンベルグ・リヒター則を厳密に当てはめると、地震の規模が小さくなると、その頻度は膨大になっていく。つまりは「地震」の数で言えば、微震の頻度は膨大になり、逆に巨大な地震は極端に少なくなる。だから平均すると圧倒的に微震の方が数で勝ってしまい、結果として地震の大きさの平均は限りなくゼロに近くなるというわけだ。