2019年7月18日木曜日

デフォルトモードネットワークと揺らぎ 2

 実は私はこの問題をどう理解していいかについて、長いこと思案してきた。科学的な知見は沢山提出され、それぞれが自分たちの研究で得られた所見を明示する。それぞれの研究はエビデンスを提出しているのだ。しかしそれらは時には矛盾していたり、つじつまが合わなかったりする。それらのデータをどのように理解して、少なくとも治療的な仮説を作り上げるかは、実はそれぞれの臨床家にかかっているのである。という事で以下に示すのは私の独自の理解であるとお考えいただきたい。
私が特に注目するのは、いわゆるマインドフルネス瞑想に関する研究である。マインドフルネス瞑想においては、心がある一つのことに注意を向け続けることで、心がそこからフラフラと一人歩きをしていくことへのブレーキをかけるという事を継続的に続ける営みだ
マインドフルネス瞑想でしばしば注意を向けるように促されるのが、自分自身の呼吸であり、たとえば鼻から唇にかけて息が吹きかけられるときの感覚などに焦点を向けることが要請される。人はそれをしばらくは行うことが出来るが、しばしばそれは中断される。気持ちはいつの間にかそこからそれて、他愛もない事柄に移っていく。それはある意味では必然的な事であり、心とは実は一定の事柄に注意を集中するという活動と、そこからフラフラ離れてしまうという活動を交互に行っているのである。これはたとえば何かを注視している際にも、時々瞬目して注視を再開するという運動に似ている。(実際瞬目時はDMNが生じているという研究もあるほどだ。Nakano et al. 2013)。
(Nakano, T, Kato, M, Morito, Y, Itoi, S and Kitazawa,S (2013) Blink-related momentary activation of the default mode network while viewing videos. PNAS 110: 702-706.)
 もしDMNが何らかの形で私たちの心的機能にとっての意味を持つとしたら(何しろ脳が使うエネルギーの75%を消費しているというのだから)TPN(課題遂行)はいずれはDMNに戻って行くという事になる。するとマインドフル瞑想が鍛えているのはこのDMNからTPNへのスイッチングという事になる。これは実は脳がDMNTPNの間を本来揺らぐものであり、そのゆらぎの在り方をより心身にとってより良いものにするためのトレーニングという事にならないであろうか?