2019年7月11日木曜日

カオス 0

カオス。実に不思議な響きを持った言葉だ。複雑系理論に親しみを持たない人にとってのカオスとは「混沌」という事と一緒だろう。何もかもゴチャゴチャになっていて、秩序もなく、そこに呑み込まれたらもう決して出ることが出来ない…。一種の地獄のような状況を想定する人がいてもおかしくない。カオス=混沌という訳語に慣れていた私たちにとってはカオス自体が学問の対象になるという意味そのものが分からない、それこそカオス的な議論という風に映るだろう。
カオスとはギリシャ文字で Χάος, 英語では Chaos である。紀元前700年ごろの哲学者ヘシオドスはこれを、大きな口を開けた空虚であり,地と空別れた時にできたものとされる。ヘシオドスは神統記 Theogony という書物で、これを最初にできた存在、と記している。実はこの私たちの浴する近代文明の生まれるはるか前を生きたヘシオドスの概念は、宇宙の始まりの理論であるビックバン仮説を思い起こさせるほどに時代を先取りしたものだった。137億年前にビックバンが起きる前の状態を誰が言い当てることが出来るだろうか。あえていちばん近い状態は、やはりこのヘシオドスの意味でのカオスではないだろうか。
しかし現在用いられているカオスにはもう一つの顔がある。それはいわば科学的な意味でのカオス、数学的なカオス、ともいうべきものであり、そこには魅力がいっぱい詰まっている。