2000年にアメリカ南部のフロリダで人がサメに襲われる被害が頻発しました。そして何か原因があるはずだ、ということになりました。海水温化、潮流の変化か、サメのえさとなる海洋生物の増減か、などといろいろ原因が探られました。しかしこのような現象は純粋に偶然でも生じると、ペンシルバニア州立スミール大学のDavid Kelton博士は説明しました。これがいわゆる「ポワッソン・バースト」だ、というのです。これはどういうことでしょうか? 純粋に偶然発生する出来事を時系列で追っても、かなりばらつきがあり、いきなり連続して起きるかのように見えることもあります。それをポワッソン・バーストとかポワッソン・クランピング(かたまり)と呼ぶのです。そしてこれが揺らぎ、と関係してくるのです。
ポワッソン・クランピングについて、スティーブンピンカー氏(Pinker,2012)が描いたものから絵を拝借します。彼はこのうちどちらかが、画面上にまったくランダムに点を打ったものだと言います。皆さんはご覧になってどちらがより偶発的な点の集まりだと思いますか?
この種のことを考えたことがない多くの人は右を選ぶかもしれません。左の絵はバラつきに不自然さがあり、いくつかの点の塊も、線状の分布の見られる部分も見られます。そうかと思えば点がまばらでやたら広いスペースもあちこちに見られます。
Pinker, S
(2012) The Better Angels of Our Nature. Penguin Books.
実は左側がランダムにプロットされた点です。ところどころに点の固まった部分があり、なんとなく不自然な気がしますが、これは全くの偶然の産物であり、すでに述べたポワッソン・クランピングというわけです。他方右側の図はニュージーランドのある洞窟の天井に止まっているツチボタルという虫の位置をプロットしたものだそうです。ツチボタルの方は自分のテトリーを確保するためにお互いに距離を取り合っているわけです。後者はある程度のランダムせいがここのツチボタルによって補正され、ならされた状態といえるでしょう。もしこれが例えばパーティー会場に集まった人間であったら、あちこちに人の輪が出来てバラつきはもっと不自然なものになるでしょう。私がピンカーの絵で示したかったことは、この一件不自然なバラつきが感じられるような左の図は、結局はランダム性を伴った出来事の推移で生じるゆらぎを二次元空間で表したものだということです。一つのゆらぎに、あるいはピンカーの図のかたまり(ポワッソンクランピング)に私たちは一喜一憂し、大概はそこに意味を見出そうとします。「どうもここら辺は、あるいは昨今はサメが出没しやすい、どうしてだろう?」とか「またこの株が上昇してきたぞ。~が理由だろう」などのように、です。ゆらぎや、ポワッソン・クランピングは、いわば私たちの想像力が生み出したものに過ぎません。