2019年5月25日土曜日

AIと精神療法 ⑧

昨日の部分を書いてから、考えているうちにもっといろいろなアイデアがわいてきた。まずAIセラピストには、出かける前に全身をスキャンしてもらう。するとたとえば「あれ、今日はめがねがポケットに入っていませんね。お忘れですか?」とか「鍵を忘れていませんか?」「ジャケットのポケットが外に出てますよ」「ネクタイが曲がってますよ。」などと教えてくれる。(私が陥りやすい問題を挙げたのだ。)女性なら「今日はアイシャドウが平均より5パーセントほど濃いですよ。」など。「気になるなら、口臭をチェックしますからセンサーに息を吹きかけてください。」も役立つ。またAIセラピストは「モニターをお忘れなく」と促すことを忘れない。これは小さなマイクロフォン、プラスセンサーで、血圧、脈拍数、さらには血糖値などもモニターしてくれる。するとこんなことも起きるかも。「どうも胸部大動脈からかすかな異音が聞こえます。ここ一月の間に、少しずつ大きくなっています。ひょっとして今日あたり解離性大動脈瘤の破裂があるかもしれません。」あるいは破裂の瞬間に自動的に119番に連絡してくれる。もちろんこれまでの医学データも即座に転送されるかもしれない。
さてもちろんマイクロフォンは一日に自分が発した言葉はすべてデータとしてAIセラピストに送られる仕組みになっている。だから上司との会話、友達との女子トークの一言一言が録音される。(ただしこのように集められるビッグデータについては、もちろん録音された相手のプライバシーを守るべきだとの議論も起き、社会で大論争になるだろう。)でもとにかくAIセラピストは忠実に、ご主人の言動についての目立った点をフィードバックしてくれる。そのうちカメラ機能まで付いたモニターが使われるようになり、まさにドライブレコーダーのようなものを個人が常に付けていることになる。そしてもちろんだが、少し酒を飲んで運転しようものなら「残念ながら、エンジンをかけることをストップさせていただきます。」と来るだろう。
仕事も助けてくれるぞ。会社での大事な会議。データをまとめて発表しなくてはならないが、上司の質問に詰まってしまう。ところが「ささやき女将」機能をオンにしておくと、極小のイヤホンから聞こえてくる。「頭が真っ白になって、どう答えたいいか判りません、って言うのよ・・・・」まあもうちょっと内容のある囁きをしてくれるかもしれないが。
しかしこれを書いているうちによくわからなくなってきた。これではAIセラピストは四六時中自分を監視していることになるのではないか。もちろんご主人様のためを思ってくれるのはいい。でもすべてを知られ、見張られているようでご主人は居心地が悪いかもしれない。そして帰宅。「本体」が尻尾を振ってやってくる。「お帰りなさい。今日は一日どうでした?」って、もう全部知ってるジャン。そうなのだ。しばらく離れているから「会えてうれしい」となるだろうに、これではもう自分自身、という感じになるかもしれない。他者という感じさえしないかもしれない。