2019年4月24日水曜日

アトラクター 1


アトラクター:学問としての面白さ
複雑系の理論のアトラクタの概念にハマってしまっている。純粋に学問的に見て面白い。
ただし理論的な定義は分かりにくいし、第一面白くない。たとえばWikiの定義を見てみよう。アトラクター(: attractor)は、ある力学系がそこに向かって時間発展をする集合のことである。
「力学系において、アトラクターに十分近い点から運動するとき、そのアトラクターに十分近いままであり続ける。アトラクターの形状は曲線多様体、さらにフラクタル構造を持った複雑な集合であるストレンジアトラクターなどをとりうる。カオスな力学系に対してアトラクターを描写することは、現在においてもカオス理論における一つの研究課題である。」
よくわからないではないか。そこでアトラクターの不思議さを知るためにはやはり視覚的な説明が一番である。


例えば上はよく出てくるローレンツのアトラクター。xyzの三軸の座標に広がる奇妙な蝶ネクタイのような図をよく見かけるだろう。しかしおそらくほとんどの人はこれが意味するものが分からない。これは数学の苦手な私ががんばって説明するならば、ある空間上の一点が時間経過とともにたどる軌跡が描く図である。三つの式は、xyzの三つの変数が時間tの変化によりどのように変化するかを三本の微分方程式により表わしたものだ。すると時間が経つとこの点がしばらくは片側の円周を回り、途中からもう片方にぴょんと移り、また元の円に戻り、という事を延々と繰り返していく様子が見られる。つまり時間が経つと蝶ネクタイの奇跡の線がどんどん濃くなって最後には真っ黒になるわけだが、どの軌跡も一致していないという現象が起きる。それはそうだ。もしある軌跡が以前の軌跡とまったく一致していたら、それ以降の軌跡は以前のものをなぞるだけだから、最終的にはこの蝶ネクタイには隙間がたくさんあくはずだ。ところが実際の軌跡は少しずつずれるという形で限りなくこの蝶ネクタイを濃くしていく。このような振る舞いをするアトラクターをストレンジ(変な、変わった)アトラクターと呼ぶわけである。ネットでちょうどローレンツのアトラクターを描くプログラムがあったので、ダウンロードしてみた。何分か走ってもらう。
開始して30秒
5分後
10分後
もちろんこんなヤヤコシイアトラクターではなく、シンプルで何度も以前の軌跡をなぞるアトラクターもある。たとえば振り子に横向きの力を加えて放っておくと、振子は円運動を延々と繰り返すであろう。勿論空気との摩擦を省略した場合である。その場合のアトラクターは一つの、なんの厚みもない環になる。しかしストレンジアトラクターは延々と、少しずつ前の軌跡とは異なる軌跡を描き続ける。
さてなぜこちらの方が断然面白いかと言えば、自然現象は圧倒的にこちらの方が多いからだ。たとえば有名な話だが、土星の輪がどうしてトビトビなのか、という問題がある。そのうち抜けている部分には、土星の周回軌道を回っていた衛星があり、それが少しずつ軌道がずれていって、ローレンツアトラクターのようにピョンとその円周から外れて、もう一つの円に行かずにどこかに飛んで行ってしまったからだという。すると衛星の軌跡というのはまさにこのストレンジアトラクターのような振る舞いをし、決して以前と同じ軌跡をなぞっているわけではないという事がわかる。
どうして自然界では結局はストレンジアトラクターが圧倒的に多い(というよりはシンプルなアトラクターは存在しえない)のは、たとえば衛星が回る際にそこに加わっている力が数限りないからだ。土星の衛星は、土星自身の引力だけでなく、太陽からも、地球からも、火星からも力が加わっている。そして太陽系そのものが銀河の中心を回っている。すべてが実は動いているのだ。三つ以上の物体が引力を及ぼし合っている状況では、すでにカオス(のちの章で説明)が生じるという事を考えると、木星の衛星がストレンジアトラクターを示さないほうがおかしいという事だろう。
20分後。すっかり出来上がった。