2019年4月17日水曜日

ある原稿 2


しかし私の中には米国で見てきた堂々とした心理士の姿がプロトタイプとしてある。心理テストのエキスパートとして威厳を保ち、いわゆる神経心理士 neuropsychologist は精神科医よりはるかに脳科学の知見に詳しかった。互いにリスペクトし、あるいはライバル関係にある医師と心理士の関係を日本で見ることは残念ながらあまり多いとは言えない。
ここで再び精神科医と心理士の協働ということを考えてみたい。それは患者を含めた「ウィンウィンウィン」の関係になれるのだろうか? 私はそれが可能と思うし、そのために心理士は心理療法の効果を今後さらに明らかにする必要があると思う。私自身がこれを望む個人的な事情を付け加えておきたい。私の外来の患者さんにとって、主たる治療手段は心理療法であることが多い。だから心理士との協働なしには私の外来は成立しない。そしてこれを実現するためには、医師の側の意識の改革とともに、大学院での心理士の教育に、医師との協働というテーマを盛り込むことも重要であると考える。心理士が精神科医にいかに働きかけるかが時には重要になるだろう。しかしそこには医療経済的な仕組みもまた重要になってくる。今のように精神科医が患者さんと5分会っても29(つまり30分未満)会っても同じ金額の通院精神療法の保険請求が出来るというのはおかしいではないか。そこには29分の面談をすることによるそれなりの報酬の底上げがなくてはならないし、それはスキルを伴った心理士() が「医師の指示」により行われた場合にも保険請求が出来るような仕組みがなくてはならないであろう。
最後に私にとっての理想の心理士さんについて考える。それは医師と二人三脚で患者のケアをできる方だ。多少の患者の感情表現には動じず、しっかり患者さんの話に耳を傾け、相手によって態度を変えることのない安定感を持った治療者。患者がいわば医師と心理師との両者に支えられることには大きな意味があるだろう。そこには医師と心理師が互いに不満や泣き言を言えるような関係である。ついでに医師の方の泣き言も聞いて欲しい・・・。しかしこのように考えていくと、これらを心理士に一方的に望むことは理にかなわないことがわかる。そのためには医師の方もそのような関係を持てるだけの力がなくてはならないだろう。それに心理士がその仕事を維持出来るような経済的な支えがなくてはならない。そのためには、心理療法が保険請求できなくてはならない・・・・。結局はかなり大きな変革が起きない限り、この医師と心理師の協働という理想は理想のままに留まるのだろうか・・・・。