2019年3月31日日曜日

ある書評、解離の心理療法 推敲 45


いくつかの大事な原稿が締め切りを過ぎていた。

現代●●講座 第一巻 精神分析の基礎 
このたび●●協会から、●●基礎講座(全5巻)が発刊されることになった。そしてその記念すべき第一巻が本書であり、2018年の暮れに出版された。本書は著者や編集者の意気込みを感じる力のこもった書となっている。「刊行のことば」で編者である●●●●(以下著者の先生方の敬称略)が記しているように、同様の企画としては既に40年近く前の「精神分析セミナー」(I~IV)がある。これは●●をリーダーとする「慶応グループ」の先生方の「精神分析セミナー」の講義録という形を取り、私も新人の頃は胸をときめかせて講義に足を運び、また書籍化されたものを読んだ覚えがある。それが装いを新たにして、現代を代表とする分析家達の手により再び発表されると思うと、感慨もひとしおである。
本書の構成は、「第一巻の紹介」(●●●●)の解説にすでに詳しいので、あえてごく簡単に触れるが、全体は3部に分かれている。フロイトが創始した精神分析について(第14講、●●、●●)、無意識について(第5、第6講、●●、●●)、臨床実践について(第79講、●●、●●)という順番で並ぶ。全体としては執筆者の多くがイギリスにかつて学んだ経歴を持つことからもわかるとおり、英国対象関係論を基盤とした講義が行われ、上述の「精神分析セミナー」が米国自我心理学的な色彩が強かったこととは対照的である。
本書を一読して感じられるのは、「読みやすさ」である。あとがきに書かれているように、本書はセミナーの講義をそのまま文章化したという形を取っているため、理論的に錯綜していたり、知識が凝縮されていると言ったところはない。さらっと読めるが味わい深い、という特徴があるといえるだろうか。
(以下略)


解離の心理療法 45




 2)反社会的な黒幕人格
 
黒幕人格のなかには一連の反社会的な行動を見せることがあります。その場合の黒幕さんはまるで陰に隠れて暗躍するかのように、通常のカウンセリングでは姿を現さないことが普通です。このいわば反社会的な黒幕人格はかなり精緻化され、認知能力を働かせた行動を行っていることになります。そしてまれにカウンセリング場面に現れ、多少なりともカウンセラーとのラポールを成立させることもあります。

カリンさん(主人格32歳・女性)とカノンさん(黒幕人格・男性)

〈省略〉
  
 面接室に黒幕人格が登場すると、日常生活での反社会的な言動を見せつけるかのように話し、治療者を威圧し困らせるようなことが続いた。治療者は傾聴しつつ、黒幕人格の背景に感じられた恐れや不安を共に抱えていく姿勢をとりつつ面接を重ねていった。主人格が結婚を考え始めたときには、人格部分で意見が分かれ、黒幕人格が最後まで結婚相手を受け入れられず、自暴自棄になるような場面もあった。その辛さを一人の人格としてきちんと傾聴を続けることで、現状をあきらめつつも納得していった経過だったと考える。