2.黒幕人格のプロトタイプ
次に黒幕人格のいくつかのプロトタイプをご紹介しましょう。黒幕さんたちはいろいろな性質を帯びますが、以下に示すのはそのうちでも典型的なものです。
1) 自己破壊的な黒幕人格
黒幕さんの中にはネガティブな言動が非常に際立ち、きわめて厭世的で自己破壊的な方がいます。常に人生を終えることを考え、負のオーラを放ち続けます。就職がうまく行ったり、恋人が出来たりしてせっかく人生が軌道に乗った時に、突然職場や恋人の前で黒幕さんが現れて大暴れをし、台無しにしてしまうということも起きます。
以下に示す例は黒幕さんに典型的な「出現は一過性」という条件はあまり当てはまらず、比較的頻繁に出現したケースです。またこの方のように、黒幕さんの厭世的な性格や自殺念慮は鬱状態と絡んでいる可能性があることが少なくありません。
ミキさん(主人格20代前半の女性)とミクさん(黒幕人格・女性)
<中略>
ミキさんのケースでは、面接開始から1年程、治療者は主人格と黒幕人格の違いに気づかずにいました。黒幕人格も別人格であることを気づかせないように振る舞っていたのです。幸い家族の協力もあり、黒幕人格の存在を治療者がきちんと認識してから、ようやく面接が進み始めた印象を持ちます。黒幕さんを認識してすぐは、彼女は主人格を装ったまま、治療者を試すような場面も見られました。<あなた、ほんとうにミキさん?ミクさんでは?>という問いかけをすることで、黒幕人格は治療者に一人の人格として認められた安心感を持ったようです。そしてミクさんは、「自分の自殺未遂のことを面接で取り扱ってほしい」と訴えるようになり、ようやく面接のスタートラインに立つことができたのです。