2019年2月3日日曜日

解離の心理療法 推敲 4


4.治療開始への不安や抵抗
様々な経緯を経て治療者にたどり着いた患者さんは、まだ多かれ少なかれ不安や抵抗を抱いているのが普通です。多くの場合、いくつかの人格が治療を受けることに対してそれぞれ別々の考えを持っています。普通は治療に積極的な人格Aさんがアポイントメントをとっても、当日の朝は別の人格が起きていて、結局来院しないということも起きます。時にBさんが、「手帳に多分Aの筆跡でこのクリニックの予定が書かれていたから、とりあえず来てみた」と言い、警戒の表情を浮かべるかもしれません。そのような警戒の念や不安を少しずつ取り除くことが、治療者にとっての最初の課題となります。多くの患者さんはそれまでの体験から、たとえそれが援助スタッフであっても、他者から助けの手を差し伸べられることへの希望を失い、時には強い不信や怒りさえ抱えています。まずは治療者に会うのを受け入れてもらうことが、治療への第一歩です。
以下にこれらの不安や抵抗を克服して治療開始に至ったいくつかの例を示します。

不信感を抱くアキホさん(30代女性)

(架空の例だが省略)

アキホさんは攻撃的な交代人格をもつDIDであり、これまで他者との間で繰り返されてきた誤解や行き違いが治療の場でも起きることに、強い不安を抱いていました。初対面の場でその不信と不安が高まり、人格交代が現れたのです。解離性障害の患者さんが急な態度の変化を見せた時には、経過を注意深く観察し何が起きているか様子をうかがい、落ち着いた態度で話しかけるのがよいでしょう。患者さんの状態に左右されることなく安定した姿勢を保ち、常に対話を心掛けることで患者さんは心の内を示しやすくなります。また患者さんが治療の必要性を自覚している場合でも、過去のトラウマを想起して他者に打ち明けることを恐れ、治療に強い抵抗を示す場合もあります。次はその例です。

話をしたくないムツミさん(20代女性、主婦)

(架空の例だが省略)

解離性障害の患者さんは、自分よりも相手のことを気にかける傾向があり、周囲に負担をかけているという懸念が受診や来談を後押しする場合もあります。治療の導入では、その時々の患者さんの気持ちや考えに沿いながら話を掘り下げていくことが最も重要です。
患者さんによっては、人格交代を始めとする様々な症状そのものが「自分の思い込みや勘違いではないか」という疑問を抱いていることもあります。