「泣き虫」だったフミカさん(30代女性、事務職)
(中略)
このフミカさんの例から分かることは、子供の自我境界の脆弱さは、ある程度は本人が持って生まれた自我の弱さが関係しているものの、それを支える生育環境も非常に大きな位置を占めているということです。上で述べたとおり、乳児は自分の感情や考えを母親とのやり取りを通して獲得していきます。英国の分析家ウィニコットが述べていますが、その際は子供が最初に感じ取り、思い、自由に母親に表現された際に、母親バージョンの感情や思考を押し付けられる(「侵害を受ける」)ことなく共有されることで、いわば乳児が自分を母親の中に見ることで成長していきます。その後に子供は母親が自分とは異なる感情や思考を持つ自分とは異なる人間であることを学び、自他を区別し、自我境界を確立していくわけですが、その前段階として重要な、自分の感情や思考を養育者に認められ、照り返してもらうプロセスが不十分であれば、この段階に進めないのです。