2018年12月21日金曜日

解離の本 60


黒幕人格の三番目の特徴は、彼らはたいていは重大な状況下において一時的に出現するだけであり、すぐに背景に引き下がってしまうということです。詳しい事情はわかりませんが、おそらく黒幕人格が出現して何らかの破壊的な行動を起こす際は、おそらくその行動自体が非常にエネルギーを使うため、すぐに枯渇してしまい、休眠に入ってしまうという印象があります。もちろん黒幕人格が外に出ること事態がその人にとって緊急事態であり、これ以上被害が大きくならないように他の人格が全力で黒幕人格を押さえ込んでいるというニュアンスもあります。患者さんの心の中を描写してもらうと、黒幕人格はしばしば奥のほうの普段は立ち入れないようなエリアで鍵のかかった部屋にいたり、鎖でつながれていると言った描写をなさいます。あるいは黒幕人格は深い休眠状態に入り、ごく稀にしか起きださないという話も聞きます。
 これらの3つの特徴を合わせて、黒幕人格は、「怒りと攻撃力を持つものの、そうと認知されにくく、重大な状況に一時的に表れる人格状態」と言い表すことができます。
 もちろん黒幕人格のような人格についてはすでに専門家によりいろいろ記載されています。「構造的解離」(Ven der Hart,Nijenhuis,& Streele,2006)は世界各国で翻訳されている解離理論ですが、それによればその人のパーソナリティの情動的な部分(emotional part of the personality, 以下「EP」)という概念があり、黒幕人格はそのひとつであると考えられています。一般に解離性障害においては、その人の人格の統合がうまく行かなくなります。トラウマ的な出来事が起きると、人格は日常生活に適応する為の「表面的に正常な部分」(apparently normal part of personality、以下「ANP」)と、防衛に特化したEPとに分けられてしまうと説明されます。ANPは日常生活を送る上で出てくる人格たちで、仕事をしたり、社会的な付き合いをするといった機能を担います。それに対してEPは強い感情の体験を担当します。つまりANPで送っている生活において、怒り、不安、喜び、といった強い情動が体験されたときに、人格がEPのうちのひとつにスイッチするということが生じるわけです。これらのEPは、かつて当人が危機的状況やトラウマの際に強烈な情動を引き起こされかけたときに、当人がそれに耐えられなくなって身代わりとなって出現した人格たちですから、似たような状況では同じことが生じるわけです。黒幕人格はその中でも最も強い情動を担い、そのせいもあって最も内側に隠れている人格のひとつといえるでしょう。
 黒幕人格の定義を先の3つの主要な要素を持つものとし、以下に項目ごとに説明していきます。