2018年12月18日火曜日

解離の本 57


このように述べたからと言って、私は自傷を止めるべきだ、とも放置するべきだ、とも主張するつもりはありませんあくまでも対応はケースバイケースであり、その際の判断を依拠するものとしての、より正確な情報が必要になります。
たとえばご家族には自傷が持つ鎮痛効果などを説明することで、「どうしてあんなに痛いことが出来るのか?」という疑問の一部は解消されることになるでしょう。解離性の患者さんの自傷行為にはあまり痛みは伴わず、その代わりにある種の安堵感が伴います。自傷を止めるというのはその種の陽性の感情を奪うことになりますが、これは本人にとってはかなりの試練となります。それは酒やたばこのような依存性のあるものをやめることがいかに難しいかを考えればわかるでしょう。
さてこのように書いた場合、治療者がご家族やパートナーに本人の自傷行為を止めることのむずかしさを伝えられた彼らの立場を考えなくてはなりません。というのも患者さんの自傷によりご家族が受けているダメージは相当なものだからです。一見、冷静に対応しているように見えたとしても、血だまりや傷跡、過量服薬で倒れている姿を発見するご家族は、そのたびに、彼らにとってのある種のトラウマ状況にさらされているといっても過言ではありません。自傷行為が繰り返されることによって、多くのご家族は以前よりは冷静に対応出来るようになっていくことと思いますが、その「冷静さ」にはある種の感覚麻痺が伴っているという可能性なども考えつつ、家族のサポートも併せて行っていくことが重要でしょう。治療者と家族との間で、ともにこの事態に立ち向かう仲間であるという関係性がうまく築ければ、患者さんの回復のためのよりよい環境形成にもつながるように思います。