2018年12月17日月曜日

解離の本 56


5-2 患者さんの家族や周囲の人々のために

自傷を繰り返す患者さんの家族には、「病気がすぐには治らないのはわかるが、自傷行為だけでもなんとかやめさせたい」と話す方がいます。痛々しい傷跡を目の当たりにし、そのような行為を何とか止めさせられないか、と考える気持ちも十分に理解できます。家族やパートナーの中には、自傷行為が何か挑戦をしてくるような、あるいは攻撃を向けられているような気持ちになる場合があります。また自分たちがケアをする側としていかに役に立っていないか、いかに無能なのかを突き付けられた気持にもなるものです。また一部の治療者は自傷行為を一種のアピール性を有するものであり、全力で止めて欲しい、本気で向き合ってほしいという意図の表れだと説明する傾向にあります。するとますます自傷行為は看過できないもの、禁止するべきものと捉えられるようになります。かつて私の患者さんで入院治療を行った方が、病棟では決して自傷行為を許されない、と語ってくれたことがあります。その病棟医はかなり経験を積んだ精神科医ですが、実際に「私の病棟では自傷行為は決して認めない」「その種の規律を維持しないと病棟の管理は出来ない」と発言されるのを聞きました。その患者さんは自傷を我慢して週末の外泊を許されるようになると、思いっきり手首を傷つけ、それを隠しながら病棟に戻るということを繰り返していました。「外泊中の自傷を主治医に告げないのはどうしてですか?」と尋ねると予想していた通りの答えが返ってきました。「自傷をすると外泊が許可されず、それだけ退院が延びてしまうからですよ。」私はこれを聞いて自傷と対応することの難しさを痛感したのを覚えています。