2018年12月14日金曜日

解離の本 54


解離性の自傷への対応

44 その他
「切り始めると、急に記憶が飛んでしまう」というように、解離状態に入ることを目的とした自傷や、「ぼーっとしていて不快だから自傷をする」というような、離人感から抜け出すことを目的とした自傷なども解離性障害には認められます。このような場面で、松本は、①両手で椅子の座面を思いきり押す(筋肉を用いて現実感を取り戻す)、②現在の日付と自分の年齢を思い出し、頭の中で自分に言い聞かせる(トラウマ記憶による退行を防ぐ)、③身近な人と握手やハグをする(安心感を得る)といった対処法を薦めています。
筆者の一人の米国での体験では、精神科病棟で自傷につながる乖離から抜け出すために氷を手に握りしめるという方法を取っていました。いわゆる「グラウンディング」の一環といえます。米国の冷蔵庫は製氷機が標準装備されていますので、手近に利用できるということとも関係しています。考えてみれば人が自らに痛み刺激を与える方法の中で唯一直接侵襲を与えないのが皮膚の冷点の刺激というわけですが、もちろん凍傷になるほどの刺激は論外です。
解離性障害の当事者やトラウマの治療者たちの話を聞くと、解離から抜け出したり自傷の衝動を抑えるという目的で実にさまざまな方法が取られているようです。これは言い換えればすべての人に著効を示すような方法がないということでしょう。しかしもうひとつの考え方は、いろいろな方法を試した上で、自分にとって一番有効な方法を見つけるということかもしれません。ただひとつ気をつけなくてはならないのは、ひとつの自傷の手段を回避するために別の自傷の手段を選ぶことは本質的な解決にはならないということです。ただし別のより生産的な、あるいは自傷を伴わない活動に満足体験を得ることができるのであれば、おそらくそれは一番薦められるであろうということです。ある種の創造的な活動による快感、たとえば絵を描いたり音楽を聴いたり、運動をしたりということに伴う快感はそれらの代表的な例といえるでしょう。
もちろん快感の中で重要なのは、対人関係によるものです。私が経験した例で、人から認められる、話しを聞いてもらえるという体験が劇的に自傷の頻度を減らしたという例がありましたが、これはそれを示しているといえます。