2018年12月13日木曜日

解離の本 53


自らの体験を描いた漫画の中で、ある当事者の方がこんなシーンを描いています。内科を受診した際に、医師がちらっと腕の傷を見て言います。「ではお薬を出しておきますね。あと…その腕ですけれど、精神科には通われているんですよね。黴菌が入ったら大変ですよ。ほどほどにしてくださいね。苦しいから自傷しちゃうんだと思いますけど。」ところが血に見えたのは実際には絵の具であったというオチです。
この内科医の言葉は医療側の典型的な反応をうまく表現しているような気がします。「ほどほどにしてくださいね。」には自制してくださいね、いい加減にしましょうね、という批判めいた感情が感じられます。言われた側はどう感じるでしょう?「こちらも好きでやっているわけではないのに・・・」という反応でしょうか?「わかってもらえていないな」という気持ちでしょうか。もちろん頭ごなしに自傷を非難し、やめさせようという反応は論外ですが、この医者の反応は、おそらく自分も自傷の経験がある人の反応とは異なります。
医師は自傷の傷跡を目にし、それを治療する場面が多いために、それを叱りつけるというより先に、どのような処理が必要か、縫合の必要はあるか、感染の可能性はどうか、という見方をする傾向にあります。しかし医師によっては救急医療を提供している立場でも「自分で切った傷は治療しない」と言って門前払いにしてしまうというケースがあると効きます。もちろん出血多量ですぐにでも処置をしなくては、という場合は別でしょうが、自傷を「自己責任だ」「いちいち対応していたら癖になるだろう」などと言って取り合わないというケースは日本の医療においては多少なりとも見られ、それは精神疾患そのものに向けられた一種の偏見に根差しているのではないかと考えることもあります。2004年に私が帰国して一番当惑したのは、日本では精神科の救急は、ERでは扱わないという不文律があるということでした。(もちろん○○国際病院の救急のように、精神科を扱っている施設もありますが。)