以上のように自傷行為を黒幕人格によるものと考えた場合、DIDにおいて生じる自傷の様々な形を比較的わかりやすく理解することが出来るようになります。なぜ患者さんが知らないうちに自傷が行われるのか。それは主人格である人格Aが知らないうちに、被虐待人格が自傷する、あるいは虐待人格が被虐待人格に対して加害行為をする、という両方の可能性があります。時には主人格の目の前で、自分のコントロールが効かなくなった左腕を、こちらもコントロールが効かなくなっている右手が傷つける、という現象が起きたりします。その場合はここで述べた攻撃者との同一化のプロセスで生じる3つの人格の間に生じている現象として理解することが出来るでしょう。