2018年12月1日土曜日

解離の本 45


いじめを受けていた当時、Aさんさんは、何度か両親にそのことを相談したことがあったようです。しかし「かんばって乗り越えなさい。人生ではこれからもっと大変なことがあるのよ。」と言われるばかりでした。Aさんは自分の体験がいかに深刻かをわかってもらっていないと感じて絶望し、それ以後、誰かに助けを求めるということやめました。かといって学校に行かないことも許されず、逃げ場がない中、彼女はひたすら、その状況に耐えてきたために、体験と情緒は切り離され、半ば心を麻痺したような形で過ごすという習慣が身につきました。特に苦しかった時ほど、記憶の中で靄がかかったように心の底に沈んでいきました。Aさんの、最初の頃の「淡々とした」「他人事」の口調がそれを表していたようにも思います。治療関係が深まる中でAさんのおぼろげな記憶を少しずつ辿り、その体験がいかに過酷であったかを治療者が聞き取ることで、Aさんは初めて自分の身に起こった出来事を話してよかったと感じることが出来ました。それでも彼女が友達関係で受けてきた苦しさや、それを誰にもわかってもらえなかった怒りなどを、少しずつ自分のものとして語れるようになるには、かなりの時間を要しました。それにつれて漠然とした不安を感じることは減り、自傷もほとんどなくなっていました。
フラッシュバックに伴う自傷は、安心できる環境の中で、そのトラウマ記憶にどのように向き合うかということが大事だといえるでしょう。