2018年11月17日土曜日

ある対談の続き 2


N先生:はい。それでは私もちょっと意見を言わせていただきます。私自身は普通の精神科医で、普通の診療の中で解離の方とお会いしています。ですから、10分診療の中で何ができるか、というのが私のテーマのようになっていて、意地になって10分でやっているというところがあります。その中でお会いしていていますが、なぜか関西では、解離の治療をするのは東京しかない、解離の専門家は東京にしかいないという噂が流れていて、それで関西でちょっとでも解離を扱うとなったら、そこに患者さんがいらっしゃるということがあって、私もそれなりの患者さんにお会いしています。そんな一精神科医の印象としてお話すると、統合ということ自体、今、お話もO先生、S先生からありましたけれども、あまり治療の中で使っていて、いい印象がないのです。患者さんのみなさんは、それを恐れるようなところがあり、「統合したら治るんですよね」という人はなんかそれをネットか何かの情報で仕入れてきた、なにかこう現実的でない、理論的なものとして捉えていて、本当にご本人がよくなる、救いになる手段としての「統合」という言葉を使うことがあまりない印象が私自身はあります。そういう事情もあって、私もあえて「統合」を使わない、治療の中ではあまり持ち出さないという風にしています。患者さんの中では、統合した、つまり「AとBが統合しました」という形で報告してくれる人がいるんですけれども、後になって「またDが出てきました」とか言ったりするんで、それが治療的に、統合が本当に前進しているという印象をあまり持ったことがないんですね。別の人格、特に感情的な人格であったり、いわゆる黒幕人格というような、非常に怒りを抱えた人格と接点が持てて、これは統合とちょっと違うかもしれないのですが、そういう人格と他の人格とが交流できたりするようになってくるということを通して、ちょっと治療が前進したと私自身はイメージしているんですけれども。そういうことが上手くいって、なんか黒幕さんがだんだん穏やかになってきて、結構、会話ができて、なぜ、この人がこんなことで悩んでいるのかなという会話ができて、あ、これもしかしたら、統合ではないんだけれども、ひとつの安定の仕方で、前進かなと思った矢先、次の時来たらまた別の黒幕さんが現れる、ということが起きます。やっぱり、ご本人の本当に大事なところがそれで解決されたわけではなかったということだろうと思うんですよね。そういうことを考えると、もし統合してもご本人の本当に大事なところでそこで何かひとつ越えているという経験になっていなければ、また別の人格が現れちゃうということにもなるのかなとも思って、ま、統合だけを取り出すということについては、私自身も、ちょっと臨床の中ではあまりピンときていないというのが正直なところです。