2018年10月26日金曜日

PD 推敲 2


ICD と DSM は今後近い関係になっていくことが予想されていたし、またそれが望ましいのであろうが、実際にはこのPDの分類に関しても袂をわかってしまった形になっている。

PDの類型分類に関する個人的な不満

さてここからはこれらのPDの診断基準の移り変わりにある意味では翻弄される一臨床家としての感想である。
  まずDSM に見られるような10の類型分類については、特に不満があったわけではなかったが、実際にはBPD (ボーダーライン), ASD (反社会性), NPD (自己愛性)、依存性、回避性の5つのPD以外には、あまり臨床的に出会わないという印象があった。(これに関しては DSM-5 に掲載された代替案で、境界性、反社会性、自己愛性、回避性、強迫性、統合失調型が残されて、あとは消えるところだったことを考えると、あたらずとも遠くはなかったように思える。
まず私が個人的に体験したのは、BPD に関する捉え方の変化である。臨床を続けていくうちに徐々にカンバーグ流のBPD の概念に疑問を感じるようになった。治療者側に手のかかる患者にBPD という診断を下す傾向が目に付くようになった。またトラウマを受けた患者の自傷行為や解離症状もアクティングアウトと捉えてBPD のラべリングが行われる傾向も行き過ぎの感を強くした。そうしてもう一つ、ボーダーさん的な振る舞いをする人の一部はそれが継続し、一部はそれを卒業していった。ボーダーさんの一部は人生の一時期それらしい振る舞いをするものの、それらしさが影をひそめることが少なくないのである。そこで Gunderson Zanarini らの研究、つまり数年後に大多数のBPD の患者は寛解するという研究を知り、やっぱりね、ということになった(Zanarini, et al, 2003)。またそれをもとに、私たちの多くは人生の岐路で一種の反応「ボーダーライン反応」(岡野、2006)を起こすが、それをBPD と決め付けることはできないという趣旨の発表を行ったことがある。
Zanarini MC1, Frankenburg FR, Hennen J, Silk KR (2003) The longitudinal course of borderline psychopathology: 6-year prospective follow-up of the phenomenology of borderline personality disorder. Am J Psychiatry. 2003 Feb;160(2):274-83.
岡野憲一郎(2006) ボーダーライン反応で仕事を失う . こころの臨床alacarte 25:65-69 
 次にNPD(自己愛パーソナリティ障害)についてであるが、これも人生早期から見られるものというPDの定義とは裏腹に、後天性のもの、社会で一定の地位を得ることで起きてくる状態が知られるようになったひとが獲得する、いわゆる傲慢症候群 hubris syndrome (OwenDavidson, 2009) に類似するものと捉えるようになった。そしてそれは私の「自己愛は制限するものがなければ肥大していく」という「自己愛の風船モデル」(岡野、2017) とも重なった。
David Owen Jonathan Davidson (2009)Hubris syndrome: An acquired personality disorder? A study of US Presidents and UK Prime Ministers over the last 100 years. Brain, Volume 132, Issue 5, 1 May 2009, Pages 1396–1406,
岡野 憲一郎 (2017) 自己愛的(ナル)な人たち 創元社