2018年10月24日水曜日

PD 推敲 1


何がどこまで進んでいるのかが分からなくなってきた。しかしDSMとICDの齟齬は続いていることはよくわかる。ついでに日本語訳の齟齬も起きている。detachment (距離を置いていること、他人事のようになっていること) はDSMの訳では「離脱」で、ICDだと「離隔」になりそう。もういっそのこと「デタッチメント」でいいのではないだろうか? ダメか・・・・。

パーソナリティ障害(以下PD)の概念について、これまでの私自身の臨床経験から再考を加えたい。
他の多くの疾患概念と同様、私たちは日常臨床の中でPDをあたかも実体が伴ったものであるかのように扱う傾向にある。PDの概念は常に臨床家がその意味を問い直し、その限界を意識しながら用いるべき概念であるということだ。
私たちは一般に人の性格にはいくつかの特徴があり、それにしたがってある程度の分類ができると考えている傾向にある。DSM-IVPDについて以下のように定義していた。
「その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った,内的体験および行動の持続的様式(認知、感情性、対人関係機能、衝動の制御から二つ以上)。」
そしてそれが持続的である以上、そこにある遺伝的な素因、あるいは幼少時の成育環境がその重要な決定要因だと考えるであろう。
PDの分類は大きく分けて二つある。ひとつはそれをいくつかの類型に分ける方針であり、もう一つは特性論、すなわち人格がいくつかの特性により構成されるものとみなし、それぞれの量的差異からそれを示す、いわゆるディメンショナルモデルである。前者はたとえばシュナイダーに見られ、DSMに引き継がれたような類型型の分類であり、シュナイダーはそれを10に分けた。それらは意志薄弱者、発揚者、爆発者、自己顕示者、人間性欠落者、狂信者、情緒易変者、自信過小者、抑鬱者、無気力者である。
 1980年のDSM-IIIに掲載された10のPDの分類は、基本的には2013年のDSM-5にも受け継がれた。それらは大まかにその人の行動上の特徴を特に有するもの、感情の特徴を有するもの、思考の特徴を有するものという三つのクラスターに分けられた形で、DSMの改訂が今後10年は出版されないとすると、なんと50年間この10のPDは変わらないということになる。それなりにうまく作りこまれたPDの記載であるということはわかるだろう。またICD10の段階ではこのDSMの累計型に準じたPDが記載されていた。
他方の特性型に関しては、DSM-5の準備段階では、類型型に変わって掲載される公算が強かったが、実際には巻末の「新しい尺度とモデル」の章に、「パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル」として提示されるにとどまっている。それによると基準Aとしてパーソナリティ機能における障害の程度を評価し、それは「自己」に関して、同一性と自己志向性、「対人関係」に関して、共感性と親密さを構成要素として示し、それらの重度について0から4までに分類される。また基準Bの病的パーソナリティ特性personality traitとしては、否定的な感情negative affectivity(9)、離脱detachment(6)、対立antagonism(6)、脱抑制disinhibition(5)、精神病性 psychoticism (3)の5つの特性領域についてであり、それぞれが()内に示された数だけの、重複を省くと総計25特性側面facetを有している。ただしこれだけだとあまりに複雑なので、反社会性、回避性、境界性、自己愛性、強迫性、統合失調型の6つの特定のパーソナリティを挙げてある。ちなみに2018年に発刊されたICD-11 では、PDはこの特性モデルに大幅に全面改訂されており、否定的感情negative affectivity、脱抑制disinhibition、離隔detachment、非社会性dissociality、制縛性anankastiaに分かれ、それとは別個にボーダーラインパターンborderline pattern が掲げられている。