2018年10月23日火曜日

CPTSDについて もう推敲 1


書きあがっていないが推敲を始める。
Complex PTSDの概念は Judith Hermanに由来する。彼女は1992年の著書「トラウマと回復」で「長期にわたる繰り返されるトラウマに続く症候群にはそれ自身の診断名が必要であるThe syndrome that follows upon prolonged repeated trauma needs its own name. 私はそれをcomplex PTSDと呼ぶことを提案したい.」と記している。このcomplex を日本語にした場合に、複合的とするか、複雑性とするかは議論の余地があるが、本稿では「CPTSD」として論じたい。
このCPTSDの概念をいかに臨床に応用するかについては、これまでに様々に議論されてきた。Hermanの盟友ともいえるVan der Kolk DESNOSDisorder of txtreme stress, not otherwise specified他に分類されない、極度のストレス障害)を提唱していたが、その趣旨はCPTSDに非常に近いものと考えられる。DSM-IVにおいてはこのDESNOSが導入されることが真剣に検討されたが(van der Kolk, et al, 2005)、ご存知のように2013年のDSM-5には採用されなかった。それが2018年に発表されたICD-11ではCPTSDとして採用されることとなった。ICDDSMCPTSDをめぐって大きく袂を分かったということになる。

van der Kolk BARoth SPelcovitz DSunday SSpinazzola J. (2005) Disorders of extreme stress: The empirical foundation of a complex adaptation to trauma. J Trauma Stress. 2005 Oct;18(5):389-99.

DESNOSPTSDとかなり症状が重複していて、またPTSDBPD、MDDとも重複しているから、改めて疾病概念として抽出する必要はなかったとされる(Resick, 2012)DSM-5PTSDの診断基準は、DSM-IVのそれに比べてかなり加筆されているため、それ自身がCPTSDの一部をカバーしている可能性がある。DSM-5PTSDの診断基準で新たに加わったのは、D基準(認知と気分のネガティブな変化)であるが、更に具体的には、
D.心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2(またはそれ以上)で示される。
(1) 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)
(2) 自分自身や他者,世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(:「私が悪い」、誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)
(3) 自分自身や他者への非難につながる,心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識
(4) 持続的な陰性の感情状態 (: 恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)
(5) 重要な活動への関心または参加の著しい減退
(6) 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚
(7) 陽性の情動を体験することが持続的にできないこと(:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)

Resick PABovin MJCalloway ALDick AMKing MWMitchell KSSuvak MKWells SYStirman SWWolf EJ. (2012) A critical evaluation of the complex PTSD literature: implications for DSM-5. J Trauma Stress. 2012 Jun;25(3):241-51.

 更にDSM-5PTSDにはいわゆる「解離タイプ」が新たに記載されている。すなわち離人感や現実感消失体験を伴うものは、「解離症状を伴う」と特定されることとなった。
このようにDSM-5ではCPTSD を導入する代わりにPTSDの基準自体を重たくし、さらに解離タイプを加えたことで対応を行ったつもりでいたことになる。しかしその後に進められた臨床研究の産物として作られたCPTSDは臨床概念として意義深いものと考えられる。