2018年10月16日火曜日

C-PTSDについて 1


CPTSD(複雑性PTSD) について書かなくてはならなくなった。このところいろいろ予定が重なっている。 

CPTSDの概念は Judith Herman に由来することは知られている。彼女は1992年の有名な著書「トラウマと回復」で「長期にわたる繰り返されるトラウマに続く障害にはそのための診断が必要である」と書いてある。(The syndrome that follows upon prolonged repeated trauma needs its own name. I propose to call it complex PTSD.)
このCPTSDを正式な診断名としてDSMに入れるかについては、それ以来実にいろいろ議論されてきた。Van der Kolk さんはHerman さんとは盟友であり、彼自身はDESNOS(他に分類されない、極度のストレス障害)を提唱していたが、その趣旨はCPTSDとだいたい同じである。しかしご存知のように2013年のDSM-5に入らなかった。だからICDDSMはこの点で大きく袂を分かったということになる。
ここからはChristina Buxton  Gordon Turnbull 先生がネットで公開しているパワポ資料を検討しつつ参考にして、しばらく勉強してみる。
 ある論文(Resick ,2012)によれば、DESNOSPTSDとかなり症状が重複していて、またPTSDBPD,MDDとも重複しているから、改めて疾病概念として抽出する必要はない、と主張する。DSM-5PTSDの診断基準は、それ自体がかなり加筆されている。そのうちCPTSDと重なるのは、D基準(認知、気分の低下であり、それは自分や他者に関する歪んだ確信、狭小化した情動、他者から切り離された感じ。)
E基準(過覚醒、過反応性、焦燥感、衝動性、自殺衝動など)ということだ。
CPTSDPTSDというコンポーネントとDSOという二つのコンポーネントからなるという。DSOとはdisturbances in self organization だという。自己組織化の障害、という日本語になるが、分かりにくい。具体的にはaffect dysregulation情動の調節不全、negative self concept ネガティブな自己概念、disturbance in relationship 関係性の障害からなるという。つまりDSOとはトラウマによりその人の感情や関係性や自己概念にかなり長期化する変化を被っているというわけだ。そうこれをHerman さんも最初から言っていたことだ。つまりCPTSDは当然PTSDを含む。CPTSDだけどPTSDではない、という人はいないことになる。
少しわかりやすい。 要するにPTSD + DSO = CPTSD
さて、最近は疾病概念が正当な構成概念valid construct なのかをやかましく問う。わかりやすく言えばちゃんとその概念に相当する患者さんがいるのか、というわけだ。CPTSDの人は実際はいませんでした、とかCPTSDの診断が下る人は実は全員PTSDの診断も下っていました、というのでは意味がない。CPTSDという概念を設ける意味がなくなってしまうからだ。そこで研究をすると(Brewin et al, 2017) CPTSDの人と、深刻なPTSDだけれどCPTSDではない、という人がはっきり異なるグループの患者として存在することが分かったという。結局PTSDを満たす人とCPTSDを満たす人の違いについていろいろな研究が2013年以後も行われたらしい。その結果この診断基準には意味があるということになったわけだ。
結局これだけの証拠が挙げられたからにはCPTSDはやはり診断基準に加えることに意味があるということだろう。この様に見るとDSM-5はどうも分が悪いように見える。おそらく10年はDSMは改訂されないだろう。(DSM-IVからDSM- 5までに19年かかっている。)その間ICDに比べて使い勝手の悪さを晒し続けることになるわけだ。