2018年10月15日月曜日

パーソナリティ障害はまだ・・・ もうそろそろいいか? 14

 パーソナリティ障害の短い論文を書くために、この Kevin Dutton の本を読んでいるのだが、他の原稿がたまってきている。とてもこんな悠長なことはやっていられない。しかし彼はいろいろな話題を出してくる。166ページ目から始まる Make Me a Psychopath でも面白い知見が描かれている。百戦錬磨の兵士である Andy の話。残酷なヴィデオを見せられてどのように脈拍数や血圧が上がるかをDutton 先生と一緒に検証した。「緊張するよねー」とか言って二人ともビデオが始まる前から脈も血圧も上がり気味だったという。ところがいざビデオが始めると、Andy はある種のモードに入ってしまい、むしろ両方が低下してしまったという。他方の Dutton さんは脈も血圧もとてつもなく上がったというエピソード。それから Dutton さんは自分を実験台にして扁桃核に対して磁気刺激を加えてその動きを低下させるという試みを行った。と言っても扁桃核は脳のかなり深部にあるために、両方につながる背外側前頭前野と右側の側頭頭頂接合部を抑制する形を取るという。扁桃核は感情の座であり、そこが敏感であることで人は不安を感じる。サイコパスではこの部分の反応がかなり鈍いことが分かっている。すると Dutton さ んは妙な気持になり、何も気にせず、気が大きくなり、「そうか、サイコパスになるってこんな感じか・・」という感慨があったという。
この部分もいろいろ考えさせられる。この Andy が示した脈拍と血圧の低下は明らかに副交感神経系の刺激であり、背側迷走神経系の活動が高まった状態である。普通はトラウマを負った人の中で解離タイプの人が起こす反応として知られている。このブログでも Porges さんの例のポリベーガルセオリーで説明した通りだ。ということはトラウマへの解離反応と、サイコパス的な(といっても Andyさんがそう、というわけでは決してないが)反応がここで通じていることになる。かなり面白い話だと思う。