2018年10月3日水曜日

パーソナリティ障害はまだ・・・ 7


本文も書き始めなきゃ

●パーソナリティ障害(PD)という概念を再考する

これまでの臨床経験から私が至ったパーソナリティ障害(以下PD)についての理解は、「結局はPDってよく分からない」ということである。PDは皆がわかったつもりになっていて、実はわからない概念である。
一般の方も臨床家も、人の性格にはいくつかの特徴があり、それにしたがって分類できると漠然と考える。私たちは生きるうえで、Aさんはこんな人だ、Bさんはこんな感じだ、という一種のラベリングを行う。それが出来ているつもりになっている。と言っても人の性格を分類するにはある種の指針が必要である。単に「あの人はやさしい人」、「あの人は気難しい人」、というだけだと大雑把過ぎる感じだ。そこでDSM的にいえば、その人の行動上の特徴、感情の特徴、思考の特徴という三つの要素から考えるのがおおむね妥当と言えるだろう。これらの三つについて組み合わせると、なんとなくその人の性格がどんな感じかが判った気になる。「Aさんは怒りっぽく、いきなり人に攻撃的になったりする人」(反社会性PD或いは自己愛性PD)などという感じである。DSMではこれを3つのグループに分け、行動に特徴のある群、思考に特徴がある群、感情に特徴がある群に分け、全部で10の典型的なPDを示した。それが1980年(DSM-III発刊のとし) のことである。
これは基本的には最新のDSM,つまり2013年のDSM-5にも受け継がれている。ICDだってほとんど似たようなリストを挙げている。DSM-6が今度いつ出るかは判らないが、少なくとも10年は出ないであろうとすると、なんと50年間この10のPDは変わらないということになる。なんとうまくできたことか。
ところがこのPDの分類に満足している人が大多数かというとそうではない。人気のある??BPD (ボーダーライン), ASD (反社会性),NPD(自己愛性)などは確かに頻繁に診断が下る。しかしたとえばスキゾイドとか、演技性、などは、めったに診断がつけられないのではないか。(私はほとんどつけた事がない。) それにこの10PDはあまりにピジョンホーリング(つまり鳩舎のようにいくつかの型に人を放り込むだけのような分類)ではないか、といううわさも出た。そこで例の昔からあるOCEANSの登場だ。数日前に書いた、伝統的な性格のビッグファイブ、つまり「体験に対するオープンさ」「良心的な性質」「外向性」「人当たりのよさ」「神経症的性質」という5次元を考えて、それぞれを独立変数として捉え、人の性格は、O3点、C2点、E4点、A1点、N3点という風にして、たとえば「3-2-4-1-3」を人の性格として表そう、ということになった。しかし最後の最後でこのアイデアがひっくり返されて、結局ふたを開けてみたらこれまでと同様の10のPDが列挙されたものになってしまった、というのが2013年のDSM-5の出版間際に起きたことだったのだ。
そこでの教訓はこう表現できるだろう。性格についてきちんと記載しようとしたら、先ほどの「Aさんの性格は、3-2-4-1-3です」みたいにすごく面倒なことになるから、やっぱり典型的な10のうちどれに近いか、ということにしちゃおう。そして5次元モデルは今後も研究を継続ということにしよう、となったわけだ。